どこまでも平行線な二人
「何、バカなことを言っているの? そんなことをやって罪滅ぼしのつもり? 何で、もうすぐバラバラになるのに、家族旅行をする必要があるわけ? そんなの桜や冬彦をもっと深く傷つけるだけよ」
小秋は辰雄の提案を聞いて、心の底からがっかりした。もともと浮気をするような奴だから、今さら何も期待してないけど…。あいつ、とうとう、脳みそまで腐ってしまったんじゃないか?
『だからこそ、桜と冬彦には必要なんだ…。これから、家族がバラバラになる前に、かつて四人は家族として、共に過ごして来たんだ…ってことを胸に刻んでおいて欲しいんだ』
何を言っているんだか…。辰雄が浮気さえしなければ、今も何事もなく、四人で暮らし続けていたと言うのに…。それをぶち壊した張本人が共に過ごした日々を胸に刻めとは笑わせる。
「……」
『お金なら、俺が全部出す! これで、お金で買えない思い出が作れるなら安いものだ!』
辰雄にはなぜ小秋が理解してくれないのか、全く理解できなかった。昔からそうだった。小秋は何も受け入れてくれなかった。いつも、二人の間には深い溝があった。この溝さえなければ、小秋ともきっとうまくやっていけただろうに…。
「とにかく、そんなことは絶対にやりませんから! もう二度と、そんなアホらしいことを言わないで! 私、今から勤め先に行って、辞表を出さないといけないから! じゃあね!」
小秋はそう言うと、一方的に電話を切った。二週間ぶりに我が家に戻った小秋は勤め先の幼稚園に行ったり、家に置いてある荷物を実家に送る準備をしたり…で大忙しだった。
『あっ、電話切れているし…』
受話器から、ツーツーと言う音だけが聞こえた。辰雄は受話器を置いてから、しばらくぼんやりと考えた。とにかくやるしかない! まず、福岡にいる娘と息子を迎えに行こう。
もうすでに、会社には一週間ほど休みをもらっていた。名目上は祖母の四十九日の法要準備と法要のためだが、四十九日にはそのうちの二日しか使うつもりはない。残りは子ども達と最後の思い出を作るために最大限使う予定だ。
職場では上司から岡川の件をうまく片付けるように諭された。浮気だけでも十分に悪いイメージがつきまとうのに、浮気相手を妊娠させた上に妻と離婚と言うのは、よほど注意しないといけない。
そうしないと今の仕事を続けられなくなる…と言うものであった。もうすでに、岡川はこの会社を退社しているので問題ないと思っていたが…。
辰雄が思っているほど、世間体は甘くない。それでも、辰雄の上司は彼の人柄と仕事ぶりをそれなりに評価しているので、うまいこと、この問題を乗り切って欲しいと思ってくれている。できる範囲でかばってやるとの有り難いお言葉も頂いたほどだ。
とにかく、辰雄は急いで福岡へと向かった。もうすでに、岡川にもこのことは伝えてある。岡川は快諾してくれた。
岡川遥は、一日でも早く辰雄があの悪夢から解放されるように願わずにはいられなかった。毎晩、例の悪夢にうなされるようでは新しい生活に支障が出て、甘い新婚生活どころではなくなるのではないか…。
そんな漠然とした不安が岡川にはあった。だから、ここで悔いの残らないように子ども達と最後の思い出を心に深く刻んで欲しいと願わずにはいられなかった。それが、そのまま岡川とこれから生まれてくる赤ん坊を含めた三人の幸せにつながると彼女は思っているようだ。




