女同士の意地争い
「もしもし、お電話変わりましたけど…」
『ちょっと、義姉さん、どう言うことなんですか?』
「どう言うことって…、どう言うことなんですかね?」
ゆりはわざととぼけて見せた。小秋の言いたいことはだいたい分かるからだ。それにしても、この人には感謝の気持ちとかはないのだろうか? 確かに、断りもなく、人様の子どもを勝手に預かったことは悪かっただろうけど…。
『そんな…ごまかさないで下さいよ。どうして、桜と冬彦に変なことを吹き込んだのですか? 私達、もう、どうにもならないんですよ。あの人が浮気なんかしなければ、また違ったかもしれませんけどね…。先ほど、離婚交渉がまとまって、あと書類を役所に出したら、晴れて離婚成立しますから…』
小秋はゆりに現実を伝えた。そもそも、辰雄が浮気して、浮気相手である岡川遥を妊娠させた時点でこうなることは分かっていたはずだ。浮気するような人と一緒には暮らせないし、そんな人に子どもを任せる訳にもいかない。
常識のある大人ならそんなこと分かるはずだし、それが分からないなら頭がどうかしている。
「何か勘違いしていない? 私があなたの子ども達をそそのかしたとでも言うとですか? そんなことするはずがないじゃないですか。あれは桜ちゃんと冬彦君が自ら決めたことですよ!」
『はあ? 小学生が自分の力で東京から福岡まで行けるとでも言うの? そんなの、大人の手助けなければ、できるはずないでしょう? あなたね、ある日、突然、子どもがいなくなると言うことが、どう言うことか分かっているんですか? ただでさえ、夫の浮気で参っていたと言うのに…。おかげ様で、こちらは一週間ほど失意のどん底でしたよ』
小秋はゆりに皮肉たっぷり言い返した。一人の女性として、一人の母親として、どうしても譲れないものがあった。全てのプライドがズタズタにされたあの日…。小秋はゆりに対して、怒りを通り越して、憎しみすら感じていた。
「ずいぶんな言い方ですね…。もし、私達が何もしなくても、あの二人は間違いなく家出していましたよ。そしたら、子どもだけで危険な所へ行って、取り返しのつかないことになっていたかもしれません。それを防ぐために、私達は桜ちゃんと冬彦君に、安全な隠れ家を提供することにしました。子ども達をそこまで追い込んだのは、どこの誰ですか?」
ゆりも負けじと小秋に応じる。少なくても、非難されるようなことは一切していない。それどころか、感謝されてもいいぐらいであろう。それなのに、小秋は自分のことを棚に上げて、ゆりを一方的に責めるので、思わずゆりもきつい言葉で言い返してしまった。
『……』
子ども達をそこまで追い込んだのはどこの誰ですか?…と言われて、小秋は思わず黙り込んだ。そこまで言われると、小秋は何も言い返せなくなる。
『まあ、とにかく…。ちょっとは子どもに本当のことを教えておいて下さいね。では、失礼します!』
そう言うと、小秋は一方的に電話を切った。ゆりは思わず舌打ちをした。それを桜と冬彦が不安そうに見るので、ゆりはにっこりと笑ってごまかした。
「もう三時か…。ちょっと、お腹がすいたね。おやつでも食べようか? 桜ちゃん、冬彦君」
「わ〜い、おやつだぁ〜」
冬彦が喜びの声を上げた。桜も嬉しそうに、リビングのテーブルに座った。上からめざとく聞きつけたあおいと夏美もリビングにやって来た。四人の子ども達と一緒にアイスを頬張る。
でも、桜と冬彦の顔には不安の影がつきまとっていた。もちろん、それをゆりは見逃さなかった。
この子達には、遅かれ早かれ真実を伝えなくてはいけない事ぐらい、ゆりも分かっている。しかし、せめて福岡にいる間は、何も知らずにいさせてあげたい。桜と冬彦を見るたびに、遠い日の自分達と重ねてしまう…。




