母と子ども達の微妙なずれ…(1)
「あっ、母さん、どうして、今まで電話に出てくれなかったの?」
もうすでに桜と冬彦が、福岡の修平とゆりの所へ行ってから十日が過ぎていた。小秋はようやく辰雄との離婚交渉を無事に終えて、晴れ晴れとした気分で電話に出た。
二人の子どもが福岡に家出をしてから、小秋は失意のあまり、一人寂しく実家へ帰ったほどだ。最初の五日間はひたすら泣いていた。ご飯も全く受け付けなかった。
でも、父・大和や母・真智がいろいろと手を尽くしてくれたおかげで、少しずつだが元気を取り戻した。
本当だったら、お盆前の義祖母・梅子の四十九日までにこの交渉はまとまらないはずだったのに、父と母が動き回ってくれたおかげで交渉は、思いの外早くまとまった。
父が勇務や辰雄に金属バットを振り回した時は、ちょっとやり過ぎだと思っていたけど、本当は嬉しくて仕方なかった。
娘のことをそこまで思ってくれていたことが小秋にはほろりと来た。まあ、弟の結婚話が進んでいる大切な時期だからこそ、この問題をいたずらに引き延ばしたくないと言うのもあっただろうけど…。
それでも、小秋の心はほんのり暖かい。そのおかげで、やっと子ども達との電話に出られるほどに元気になれた。
『あっ、桜、ごめんね。母さん、ずっと体調が悪くて、一週間ほど寝込んでいたのよ…』
さすがに、二人が突然家出したショックでずっと部屋にこもって泣いていたとは口が裂けても言えない。だから、体調が悪かったとごまかすしかなかった。
「じゃあ、どうして、家で大人しくしてないのよ! 東京の家に電話しても、ずっと誰もいない…」
『家にいて、一人で寝ていても全然よくならなくてね…。それで東北のじいちゃん、ばあちゃんの所へ帰っていたんだ。それでじいちゃんとばあちゃんに看病してもらっていたの…』
かつての自分の部屋で泣いていた時は、両親に時々あやしてもらったし、辰雄と二人だけでは離婚話もまとまらなかっただろう。その時も親に助けてもらったので、看病と言う表現もあながち間違いでもないだろう。
「どうして、父さんに看病してもらわないの? 父さん、母さんと仲直りしたい…って言っていたよ」
『はあ?』
思わず、小秋は耳を疑った。いや、それ以前に桜がどうしてそんなことを言い出すのか、はっきり言って意味不明である。辰雄とは、離婚交渉を先ほど成立させたばかりなのに、仲直りしたいとは何事であろうか? もはや支離滅裂であった…。そんな小秋を気にせず、桜はのんきに続ける。
「ねえ、いつになったら、父さんと仲直りするの? 父さんを許してあげてよ。そして、早く私達を迎えに来てよ。また、四人で仲良く暮らそうよ」
『……』




