金属バットを振り回す大和
勇務と辰雄は仙台にある小倉大和の家を訪れていた。離婚話をまとめて、離婚届を作成するために高松勇務、高松辰雄、小倉大和、小倉真智、高松小秋の五人が話し合いのテーブルについたのだ。
勇務と辰雄は玄関でドアを開けた時、金属バットを持って出迎えた大和にただならぬ殺気を感じた。
大和は二人を入るように無言のまま、顎でしゃくった。大和は二人を中に入れると玄関先に出て、何食わぬ顔で素振りを二、三回ほどしていた。いくら、こちらが悪いと言っても、玄関先でそんなことをされたらたまったものではない。
こちらとしてはどうにかして持って来た土産を渡したかったのが、下手に渡そうしたら金属バットで打たれそうだったので渡せない…。
「お待ちしておりました。さあ、こちらへどうぞ」
真智が二人をリビングのテーブルに座るように促した。ここで辰雄はさっき渡せなかった土産を渡した。すると、大和がその土産をぶんどって、金属バットで叩き出した。
もうすでに小秋は黙ってリビングに座っていた。それが終っても、大和は相変わらず金属バットを持っている。そして、リビングの床にカツンカツンと何度もぶつけていた。突然、その音が止まった。
一瞬だけ静かになり、大和が勇務と辰雄の後ろで金属バットを一振りした。勇務と辰雄にはバットが空を切る音がとても大きく聞こえた。二人の顔がさらに真っ青になった。
「おい、お前ら! どう言うつもりでここへ来た! ちゃんとこちらの言い分を飲んでくれるんだろうな? 返答次第ではこのバットでぶん殴るからな! いや、そんなのに関係なく、お前らにこいつを一発かましてやりたいよ…。娘をこんな目にあわせやがって…」
「ちょっと、父さんやめてよ。そんなことしたら、話し合いにならないでしょう? もう、こんな所でバットを振り回すなら、ここから出て行って!」
父のあまりの奇行に小秋が止めに入った。それでも大和は金属バットを離さない。真智がしびれを切らしたのか、何も言わずに大和から金属バットを取り上げて、リビングから出て行った。
「なんだよ…。本当だったら、小秋。お前がバットでこいつらを打ちのめすぐらいでないとダメなんだぞ。コイツらはそれぐらいの事をやったんだから…」
「父さん、いつまでもそんなことを言っていないで、早くここに座りなさい!」
金属バットを置いて戻って来た真智が、少しドスの聞いた声で大和に言った。小秋は少しあきれながら、父を苦々しく見ている。さすがに大和はやり過ぎたと思ったのか、バツが悪そうに席に着いた。ようやく、五人が交渉のテーブルにきちんとついた。
「まずは少ないですが、これをお納めください」
そう言って勇務が百万円を三人に差し出した。勇務と辰雄がそれぞれ五〇万円ずつ出したものである。前もって送った五〇万円と合わせて一五〇万円を慰謝料として納めたことになる。
「これじゃ、慰謝料として少ない!…って言っているだろう!」
大和がいすから立ち上がって、大きくテーブルを叩いた。慌てて、真智と小秋が立ち上がって、大和を力ずくで座らせた。それを見て、辰雄が続ける。
「残りはこれから養育費に上乗せして、お願い致します」
「で、養育費はいくらくれるの? もちろん、桜も冬彦も、私が引き取っていいのよね? もし、それをみとめてくれるなら、養育費は月五万でいいよ。ただし、それに慰謝料を今後十年間月二万ずつ上積みしてくれることが条件だけどね…」
辰雄は勇務と目配せをした。事前に二人は小秋の言い分を丸呑みすると決めていた。なので、養育費は最初の要求通り月七万円請求されるとばかり思っていた。




