電話越しの子どもの願いは裏切られ…(1)
修平とゆりは毎日、桜と冬彦に両親に電話をさせていた。ただ、桜と冬彦が家出をした翌日から東京の自宅に電話しても、誰も電話に出なくなっていた。
そこで、辰雄と小秋の携帯に電話をしているのだが、二人とも一切電話に出ないのである。もう、二人が福岡に来てから一週間が経つと言うのに…。
「おばさん、どうして、父さんも母さんも電話に出てくれないの?」
桜が寂しそうにつぶやいた。ゆりはそれをとても痛ましく思った。あの二人は一体何をやっているのだろうか。あおいや夏美と一緒にいる時は楽しそうにしている。しかし、ふと一人きりになった時に見せる寂しそうな表情をゆりは見逃さなかった。それは冬彦も同じである。
「父さんと母さんはね…。今、仲直りをするための話し合いをしているんだよ。きっと…」
ゆりは思わず嘘をついてしまった。二人は辰雄と小秋を困らせれば、二人はケンカなんか止めて、すぐに仲直りして、二人を迎えに来ると信じて疑わなかった。大人から見れば、二人はもう手遅れである事は明白であったが…。
それにしても、辰雄はどうしてこのような事をしでかしてしまったのか…。ゆりは桜と冬彦を見て、子どもの頃の自分と思いを重ねた。
今から三〇年ほど前、父・勇務が離婚した時に、まだ子どもだったゆりはまだ小学生だった辰雄と一緒に家出した。十三歳のゆりと十歳の辰雄にとって、家出して外で過ごした時の夜の闇はとても恐ろしいものに感じられた。
あの時、もし警察官に保護されなかったら、北朝鮮に拉致されたり、凶悪犯に誘拐されたりしていたかもしれない。そんな思いを桜と冬彦にさせたくなかったから、ゆりは修平とあおいと夏美の三人と相談して、二人を預かる事にしたのである。
「あっ、父さん! 冬彦だけど…。どうして、今まで電話に出てくれなかったの?」
「あっ、冬彦。父さんと電話がつながったの? ちょっと、私とも変わってよ!」
「姉ちゃん、ちょっと待てよ。今、つながったばかりで、まだ何も話してないんだぞ!」
『冬彦、悪かったな…。父さん、今まで仕事が忙しくてな…。電話に出る事ができなかったんだ』
辰雄にはバツが悪そうに謝ることしかできない。さすがにずっと岡川の家にいたとも言えずに、思わず仕事が忙しかったと…苦しい言い訳をしてしまった。
本当だったら、今すぐにでも二人を迎えに行くべきだったかもしれない。しかし、もう辰雄は父親として二人を迎えにいく事はできなかった。岡川と産まれてくる子どもの三人で暮らす事を約束している。
離婚を早く成立させるために、二人の親権を小秋に譲る事を一日も早く、小秋と約束しなければいけない。桜…、冬彦…、本当にすまない…。
「父さん、母さんともう仲直りできた? 早く、また四人で仲良く暮らそうね」
『……』
「僕たち、待っているから…」
桜は堪えきれずに、弟から受話器を取り上げた。冬彦も負けずに、姉から受話器を取り戻す。とにかく二人とも話したくて仕方ないのだ。辰雄はしばらく受話器越しの二人のやり取りを聞かされた。
そんなやり取りに辰雄の心は痛んだ。二人は何も疑う事なく、再び四人で暮らしていた平凡な日々に戻れると信じている。そこには紛れも無く、子どもの頃の辰雄がいた。




