父親としてできることはやろう
まず、辰雄の家に電話をかけたが、誰も電話に出なかった。どうやら、辰雄は岡川の所に入り浸っているらしい。そんなことをしている場合じゃないのに…。勇務は気を取り直して、辰雄の携帯電話に電話をかける。今度はすぐに電話に出た。
「あっ、もしもし、辰雄です。どうしたの?」
勇務は辰雄の、のんびりとした口調に思わず怒りを覚えた。当事者なのに、全然危機感が感じられない。当事者がこんな調子では先が思いやられる…。
「何が『どうしたの?』だよ。いいか。先ほど、大和さんから電話があって、お前が親権を手放そうとしないことに、おかんむりだったんだぞ。今回のことはどう考えても百%お前が悪い。だから、あちらの言い分は全て受け入れるしかないんだよ。そうしないと、離婚するために裁判しないといけなくなる。全く勝ち目のない裁判だ。そうなれば、子どもだけじゃなくて、多額の慰謝料、さらには高額な養育費を間違いなく取られるぞ! かつて、父さんもそうだったから、それがよく分かる」
思わず、辰雄は真っ青になった。隣で岡川がそれを見守っている。辰雄は二人の子どもが福岡に家出した後、岡川と話し合って、もう二人の親権にはこだわらないと決めていた。
それを早く相手に伝えて、少しでも早く問題を解決しようと言う思いに迷いはなかった。
「分かっているよ。だから、もう親権は小秋に任せるつもりでいる。ただ、養育費は月五万円以上払えないと思う…」
「なるほど、親権を手放す覚悟ができているなら、養育費の方はなんとかなるだろう。ただし、早く交渉のテーブルにつかないとダメだぞ。時間が経てば経つほど、こちらは不利になるばかりだからな…」
それは辰雄も薄々分かっている。しかし、交渉の糸口どころか、きっかけすらつかめずにいた。一回目の交渉が全くの平行線で物別れに終わってしまったので、二階目は当事者だけでうまくできるとは思えなかった。だからと言って、一人で小秋の実家に行くのはさすがに気が引けた。
「…と言うことは、ばあちゃんの四十九日の前に決着を付けた方がいいってこと?」
「それができるなら、それに越したことはない。お前、小秋さんの実家へ行く勇気はあるか?」
「それができるなら、とうの昔にそうしているよ。一人で行けるはずがないだろう…」
「もし、父ちゃんが一緒に行くと言ったら…」
「おい、親父。あてにしていいのか?」
「もう、ここまで来たら、こちらからできる限りの誠意を見せて、少しでもこちらのペースで話を進められるようにするしかないだろう…」
「なるほど。親父、ありがとうな…」
「では、今から具体的な話をして行くぞ」
そう言って二人は詳しい詳細を詰めていく。日程やら、どうやって話を進めていくやら、どう話を切り出していくやらなどを…。その間、岡川はぼんやりと電話している辰雄を眺め続けていた。
全てが終わった後、辰雄は岡川に電話で父と話した内容について一つずつ伝えた。岡川はそれに受け入れるべく、ひとぎわ大きく頷く。




