大和、切れる!
「勇務さん、あなたが責任を感じているなら、辰雄君を説得して、桜ちゃんと冬彦君の親権をあきらめさせるのが、親の努めではないですか。そうしないと、うちの娘が本当にあわれですよ…」
勇務は大和からの電話を申し訳なさそうに聞き受けていた。問題の早期解決を望む点では二人の利害が一致しているからこそ、一層申し訳なく思うのであった。
「分かっております。うちの愚息にも言って聞かせますので…。どう考えても、こちらに百%の非がありますので…」
大和は勇務の優柔不断な態度にいらつきを感じていた。まあ、息子のしたことだから、どうにもできないことも分かるけど…。やっぱり、この親にして、この子ありだな…と思わずにはいられない。
「こんなことは言いたくないけど、勇務さんが離婚しているから、辰雄君にも悪い影響として出て来ているんじゃないですか。私と妻と娘が望んでいた平凡な幸せを返して下さいよ。娘のこんな哀れな姿なんか見たくないのに…」
「……」
「勇務さん…。勇務さん! 何とか言って下さいよ!」
「大変申し訳ありません!」
「おい、あんた。ごめんと言えば、何でも許されると思っているのか! ふざけるなよ! それに五〇万なんてはした金で済ませようと思っているんじゃないだろうな。〇が一桁足りないんじゃないのか?」
大和は勢い余って言い過ぎたことを後悔した。振り返ると、後ろに真智がいて、黙って首を振っていた。彼は慌ててトーンダウンして話をする。
「その…、すみません。ちょっと言い過ぎましたね。とにかく、こちらが満足するような解決策でないと話にならない訳ですよ。そこのところ、よろしく頼みますよ」
「分かりました。あの…、くどいかもしれませんが、本当にうちの愚息がご迷惑をかけて、申し訳ありません…」
どこまで頼りない人なんだ…。大和はあきれかえってしまい、受話器を勢いよくガチャンと電話を切った。勇務は思わず耳を押さえた。
ガチャンと言う音があまりにも大きくて、右耳がしばらくキーンとするほどだった。大和は怒り心頭である。そりゃ、逆の立場なら勇務も同じようなことをしただろう。
このようなことは立場がモノを言う。この場合なら浮気に走って、離婚の原因を作った辰雄に非があるから弱い。逆に小秋は強い。あちらには何一つ非がないからだ。
これは、早く話をまとめないと本当に大変なことになる。もはや、一刻の猶予もないと勇務は思った。
受話器を置くことなく、勇務はそのまま息子・辰雄に電話をかける。ゆりの話によれば、桜と冬彦が家出しそうだったので、それを防ぐために自分の家に引き取ったと聞いている。
ゆりの奴、よけいな事をしやがって…。ただ、桜と冬彦の立場になれば、余計なことをしているとは言いきれない部分もあるので複雑だ。
その結果、小秋は実家に帰り、勇務は小秋の父・大和からどなられることになった。何とも言えない複雑な気分になった。




