どうして、こんなに優しくしてくれるんだ?(1)
「遥、俺は本当に最低な奴だよな。子どもの時に親が離婚してつらい目に合っているのに…。今、そのつらい思いを自分の子どもにさせようとしている。とうとう、子どもは姉貴の家に家出してしまったよ。妻には何も悪いことをしていないのに、一方的に苦しめている。それなのに、遥はどうして…こんな俺を許してくれる? どうして…優しく受け入れてくれるの?」
岡川遥は辰雄を膝の上に乗せて、優しい手つきで耳かきをしていた。こんな時は何も言わずに優しく耳かきをするに限る。どんなに心が落ち着かない時でも耳かきをしてあげると、大抵の男はリラックスするのだ。
岡川は学生の頃、親に頼ることができなかったので、耳かきマッサージのバイトをしていたこともあり、耳かきはお手のものだった。耳かきはやらしいことをほとんど要求されることなく、それでいて割と羽振りのいいバイトだったので、学費を稼ぎながら大学に通うことができた。
まあそうは言っても、自分の太ももに男性の頭を乗せる訳だから、中には変な所に手を伸ばすダメな男もいた。そんな時はすぐに黒服が助けてくれる事になっていたので、大して問題にはならなかった。
やらかした男は当然、出入り禁止になるし、問題にならない程度に黒服からボコボコにされる。それはやってはいけないことをやった訳だから、ある意味仕方ない。きちんとしていれば、気持ちよく耳かきを楽しめたのに…。だから、岡川は安全に耳かきのバイトができた。
「辰雄はどうして、自分のことばかり責めるのかな? 辰雄だって、今までたくさんつらい思いをして来たんでしょう。子どもの頃は親から…。大人になってからは妻と子どもに…。家に帰るのがつらいって…、こんなはずじゃなかった…と言っていたじゃない。私は目線のことで責めたりもしないし、辰雄に寂しい思いも、つらい思いもさせない」
辰雄はそれを聞いて安心するどころか、背筋にゾクッとするものが走った。どうして、こんなしがない中年男を岡川は受け入れてくれるのか? どんなに心地よくても、それが根拠のないものであれば、安心してそこに居座ることはできない。
「どうして、こんなに優しくしてくれるんだ。遥なら、もっといい人と付き合えただろうに…」




