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親子二代の離婚  作者: あまやま 想
祖母の葬儀
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通夜の席

 小秋の弟・翔次は居心地の悪さを常に感じていた。通夜の席でもやっぱりいつもと変わらない。


 まず、ここに集まる親戚の年齢構成がいけない。まず、父・大和、母・真智、姉の小秋の義父・勇務とその姉の春子が一つのグループを作る。次に辰雄・小秋夫妻と修平・ゆり夫妻に兄の和広が別のグループを作る。


 さらに辰雄・小秋夫妻の子どもである桜と冬彦、修平・ゆり夫妻の子どもであるあおいと夏美が三つ目のグループを作る。翔次はこの中で唯一どこのグループに入れずにいる。彼と同じ年代の人間がここにはいないのだ。


 それでもまだ梅子ばあちゃんが生きていた頃はよかった。梅子が翔次のことをあれこれ気遣ってくれたからだ。翔次にとって梅子は特別な存在であった。大和が四四歳、真智が四〇歳の時に生まれた翔次は、両親はもとより年が離れた兄や姉にもすごくかわいがられた。


 しかし、その頃には実の祖母や祖母はもう誰も生きておらず、翔次は祖父母を知らないまま成長していった。だが、十八の時に姉が辰雄と結婚した事により、状態が大きく変わった。


 梅子との接点はこの時に生まれた。梅子に取って、もう結婚して自分にあまりより付かなくなった実の孫達と違って、自分を慕ってくれる翔次はありがたい存在であった。また、翔次にとっても、ばあちゃんの存在がとても新鮮な存在であった。その後も、二人はこの家で世代的に浮いた存在であったので、それが二人のつながりを強めた。


 だから、本来ならでる必要のない通夜や葬儀にわざわざ出ているのである。ちなみに兄・和広は今ここにはいない。明日も来ないようである。


「翔次おじさん、独りぼっちで寂しそうだね…」

「どうした、冬彦? お姉ちゃん達と一緒じゃないのか?」

「お姉ちゃん達は女の子だけの秘密の話をしたいんだってさ…。だから、おじさん、男同士でお話しようよ」


 迷惑な話である。どうして、通夜の席で二八歳の青年が親戚とは言え、よその子どもの相手をしないといけないのか? これなら、まだ一人でぼんやりしている方がマシである。しかし、相手はまだ十歳の少年だから無下に扱う事もできない。そこで適当にあしらうことにした。


「おじさんとひいばあちゃんって、仲良しだったよね?」


「ああ、そうだよ。でも、ばあちゃんと冬彦だって、仲良しだったじゃないか。もちろん、ばあちゃんはみんなに優しくて、みんなを愛していたんだよ」


 さっきまで周りを眺めていたが、義祖母の通夜だと言うのに、誰も義祖母の話をしていなかった。親達は「次は誰か?」と言う話を、兄や姉達は「お金の話」を、子ども達は何やら訳の分からない話をしていた。今、二人だけが通夜らしい事をしている。


「ひいばあちゃんの人生って、幸せだったのかな?」


「ああ、幸せだったと思うよ。だって、九二歳まで生きたんだ。これだけ長生きできたんだから、間違いなく幸せだったはずさ!」


「長生きできたら、幸せになれるの?」


 翔次は答えに詰まった。何となく言ったものの、長生きしたから必ず幸せになれるとは限らない。でも、十歳の子どもにそんなことを説明しても意味がなかった。


「そりゃ、そうさ。長生きすれば、たくさんの人と出会う事ができるからね」

「僕も長生きして、たくさんの人に出会いたいなぁ…」


 翔次はホッとした。冬彦の鋭い質問にドキドキしたものの、彼はやっぱり十歳の少年である。この少年はまだ何も知らないのだ。たくさんの人に出会うと言うことは、同時にたくさんの人に別れなければいけないと言うことを…。


 やがて、通夜に来てくれた人々がちらほらと帰り出した。それが合図となって、子ども達は寝る準備を始めた。大人達は片付けを始めた。そして、お開きとなった。


 こうなったらしめたものである。他の大人たちの動きに合わせて、片付けを手伝えばいいのだから…。ジェネレーションギャップがあるので、話はあわせることはできなくても、作業は手伝う事ならできる。それが大人と言うものである。

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