愛人との看病(1)
ビビビビビッ ビビビビビッ
ふと、携帯が鳴った。岡川遥からだった。こんな時に岡川から電話とは弱り目に祟り目である。外に呼ばれても、冬彦をほおって行く事はできない。
「もしもし、遥か? どうした?」
「冬彦君の風邪がどうなかったのかな…と思って…」
「いや、新型インフルだったみたいで、タミフルを飲ませたんだけど、熱が下がらなくてね…」
「そりゃ、大変ね。奥さん、結局、実家に帰ったんでしょう…。息子さんを置き去りにして…」
「ああ」
「今から、私、そっちへ行こうかと思うんだけど…」
さすがは岡川と思ったが、辰雄は一瞬ためらった。いくら妻がいなくて、息子が熱を出している非常事態とは言え、遥を家に上げてもよいものか…。しかし、自分一人では冬彦をどうすることもできない。ここは遥に助けてもらった方がいいかもしれない。
「何、考え込んでいるの。今は一刻を争うのよ。今から行くから!」
「確かに…そうだな。いろいろと気を遣ってもらって悪いな…。ありがとう」
「何言っているのよ。別に気を遣い合うような相手じゃないでしょう。じゃあ、また後で」
ここで電話が切れた。息子のことを省みない妻と、他人の子どもを我が子のように心配する愛人。どっちが正しい存在で、どっちが間違った存在なのか、辰雄には全く分からなかった。
ただ一つ言えることはどっちもどこか正しくて、どこか間違っている曖昧な存在であり、それを生み出したのは全て自分の過ちであると言うことか…。そんなことを考えながら、冬彦の汗でびしょびしょになった寝間着を新しいのに変えた。
それにしてもたくさん汗かいたな…。高熱のせいでぐったりしている冬彦が弱々しく返事をする。それにしても、タミフルは効いているのか…。まさか、この状態から急に幻想が見え出して、ベランダに飛び出すのではないか…。辰雄の心配はつきない。
しばらくすると岡川がやって来た。岡川はコンビニで熱冷まシートを買って来た。それを早速、冬彦のおでこと首筋と脇腹に貼っていた。
それからシーツとタオルケットも交換した。よく見ると、シーツもタオルケットもぐっしょりになっていて、せっかく変えた寝間着まですでにぐっしょりになっている。そのため、さっき変えたばかりの寝間着まで再度変えなければいけなかった。
次にスポーツドリンクで水分補給をさせた。これも岡川がコンビニで買った物である。辰雄はひたすら水ばかり飲ませていたが、下痢や嘔吐の時は逆効果であることを初めて知った。
それから再び、冬彦をベッドに寝かしつけた。シーツとタオルケットを変えたし、熱さまシートで程よく熱を奪っていくので、冬彦はすぐに気持ち良さそうに寝息を立て始めた。これなら、大丈夫かもしれない。
そんなこんなで岡川の的確かつ献身的な看病のおかげで、冬彦の熱は下がった。少し食欲が出て来たようで、冬彦自ら
「おかゆを食べたい!」
と言うようになった。そして、おかゆをおいしそうに食べる姿を見て、ようやく辰雄と岡川は安心した。