置いてけぼりの冬彦(1)
冬彦は急に不安になった。今度の週末に東北のじいちゃんとばあちゃんの所へ行く話を友達に話したところ、何人かの友人が
「どうして、父さんは一緒に行かないの?」
と、不思議がられた。ヒロ君なんか、
「それって、親がリコンする前に話し合うためにするんだよ。だって、うちもそうだったから…」
なんて言っていた。ヒロ君の所は父さんと母さんがリコンして、今は母さんと妹の三人暮らしをしているらしい。ヒロ君はとても大人しい男の子だ。
昔はもっと明るかったのに、ある時から、今みたいに大人しい少年になってしまった。ヒロ君が言うには、父さんが家を出て行ってから、寂しくて前みたいには明るくなれないらしい。もし、父さんと母さんがリコンしたら、自分もヒロ君のようになるのかな…と冬彦は思った。
今まであれほど楽しみにしていたのに、もう東北のじいちゃんとばあちゃんの所へ急に行きたくなくなった。こんな気持ちになったのは初めてだったので、冬彦は驚いてしまった。でも、家で一人留守番をするのも怖い…。それにしても、どうして父さんは家に帰って来ないのだろうか? 父さんがいれば、一緒に留守番できるのに…。
「ヒロ君、僕、やっぱり、じいちゃんの所へ行くの、止めようと思う…」
「冬彦が行きたくないなら、行かなくてもいいんじゃない?」
ヒロ君はいつもと同じようにそっけなかった。でも、誰よりもじっくりと話を聞いてくれる。冬彦はヒロ君のそんなところが好きだった。
「でも、一人で留守番ができないなら、行くしかないかもね…」
冬彦はただ苦笑いをするしかなかった。そして、父さんが帰って来ないかな…と心のどこかで期待していた。
週末、幸か不幸か、冬彦は風邪を引いて寝込んでしまった。そのため、冬彦は結局行けなくなった。小秋は嫌そうな顔をして、携帯から電話をしていた。どうやら、辰雄と話しているらしい。それから、三〇分ほどして辰雄が帰って来たらしい。
「冬彦、父さんが戻って来たからね。父さんが看病してくれるから、もう大丈夫だよ。じゃあ、母さんはじいちゃんとばあちゃんの所に行って来るからね。それにしても残念ね。本当は三人で行きたかったのに…。桜、行くよ」
「冬彦、じゃあね…」
姉がそう言うと、母が部屋から出て行こうとドアを開けたところに父がいて、二人を遮って部屋に入って来る。
「おい、小秋。別に実家へ戻ったってかまわないけど、風邪で寝込んでいる息子を置いていってまで行くなんて、母親のすることとは、とても思えないな…」
「そんなこと、辰雄さんに言われる筋合いはないよ。それに実家へ行く原因を作ったのはあなたでしょう。だいたい、愛人の家に入り浸っている人に、父親だの…母親だの…と語る資格があるの? 私よりもあなたの方が親として失格よ!」
「……」
「ああ、嫌だ、嫌だ。あっ、桜、ごめんね。じゃあ、私は行くから!」
姉ちゃんが僕のことを哀れむように見ている。本当は姉ちゃんだって行きたくないんだ…。でも、僕らは子どもだから、何もできなくて…いつも大人たちに振り回されている。ああ、早く大人になりたいな…。冬彦は熱にうなされながら考える。
小秋は桜の腕を引っ張り、部屋から出て行った。そして、勢い良くドアを閉めて、ドスドスと大きな音を立てて、階段を下りて行った。それから、玄関のドアが勢いよく閉まる音が家中に響き渡った後に、ようやく静寂が訪れた。