少女達の秘密会談(2)
「あっ、もしかしてさ、ひいばあちゃんの葬式のときに来ていた、あの女の人かも…」
「えっ、姉ちゃん。それって、どう言うこと?」
「夏美、覚えてないの? あの日、辰雄おじさんの会社の人が来てたじゃん。もしかしたら、あの人がおじさんの浮気相手じゃないかなと思うんだけど…」
「う〜ん、そんな人いたっけ?」
夏美は全く覚えていなかった。思い出せることと言ったら、精進料理が意外とおいしかったことと、正座で足がしびれて、葬儀の後、しばらく動けなかったことぐらいである。何しろ、曾祖母の葬儀にはたくさんの人が来ていたからな…。長生きすると、いろんな人と会う機会があるから、たくさんの人に見送られるんだな…としか思っていなかった。
それにしても、姉の観察眼はすごい。夏美は高校生になっても、あおいのように目ざとくはなれそうにない…。どうやったら、姉のようになれるのだろうか?
「だから、いたんだって! あんたは物覚えが悪いからね…」
夏美はちょっとぶすっとしたが、覚えていないことは紛れも無い事実なのでこらえることにした。それにあおいの記憶は昔からよかったので、この手の話は間違いなくほぼ確実である。
「で、どうして、その女性がおじさんの浮気相手だと思うの?」
「何でって? そりゃ、おかしいでしょう。もし、亡くなったのが辰雄おじさんなら会社の人も葬式に来るでしょう。でも、亡くなったのはひいばあちゃんだよ。おじさんの会社とは何の関係もないんだよ」
「その女性はひいばあちゃんと生前知り合いだったんじゃないの?」
「それだったら、おじいちゃんとかとも話すはずでしょう。ずっと、おじさんとしか話して話してなかったのよ。そんなのなんかおかしくない?」
「そうかな…?」
「何で…分からないの?」
「だって、私、姉ちゃんみたいに頭よくないもん…」
夏美にはさっぱり分からなかった。そもそも女性が来ていたかどうかも分からないし、姉の説明も全く理解できなかった。あおいはそんな夏美を見て、これ以上説明しても無駄だと思った。これ以上、噛み砕いた説明は不可能である。
「何か、急に眠くなって来た…、姉ちゃん、私、もう寝るね」
「あー! 宿題を全然やってない! どうしよう…。もう、十一時を過ぎているし…」
「じゃあ、おやすみ」
夏美はそう言うなり、さっさとあおいの部屋から出て行った。あおいはこの二時間の過ごし方を少しだけ悔やんだ。中学生は宿題が少なくていいな…。高校生って、どうしてこんなに忙しいんだろう。勉強に、部活に、友情に、恋に…。でも、悔やんでも仕方ないので、やれるだけのことをやってから寝ることにした。
後は朝早く学校に行ってから、友達のノートを見せてもらえば、何とかなるだろうと、自分に言い聞かせながら、さっさとベッドにもぐり込んだ。
持つべきものは友達である。あおいが宿題をきちんとこなした時は、できていない友人に見せる。逆にあおいが宿題できずに朝を迎えた時は、できている友人から見せてもらう。そうやって、お互いに支え合う事ができる友人がいるだけで、学校生活はより安全に過ごす事ができる。