表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親子二代の離婚  作者: あまやま 想
浮気の代償
14/70

ウワキって何?

「桜、冬彦。もし、父さんと母さんが別れたら、どっちについて行きたい?」


 小秋は夕食の時にさりげなく二人の子どもに尋ねてみた。辰雄はもともと帰りが遅いので、三人とも三人だけの食事に慣れている。一応、八時に家族四人でそろって食べる事になっているが、辰雄が仕事で遅くなる時は、三人で食べる事になっている。どちらかと言うと、三人で先に夕食を食べる事が圧倒的に多い。


 小秋が辰雄に浮気のことを問い質して以来、辰雄はますます家への足が遠のいている。もう、かれこれ一週間ほど家に帰って来ていないようだ。さすがにここまで来ると、桜も冬彦もその異変に気付くだろう。


「私は母さんかな…。だって、父さんは全然かまってくれないんだもん。ねぇ、冬彦」


「うん、僕も母さんかな。父さんはいつも仕事ばかりしているし…」


「ねぇ、母さん。父さんはどうして最近家に戻って来ないの? そんなに仕事大変なの?」


 なんてことだろうか…。子ども達は父が何をしているか、全く知らないのである。仕事? とんでもない! 辰雄は浮気に勤しんだあげく、浮気相手を妊娠させていると言うのに…。


 知らないとは言え、疑うことをしらない子ども達は、ただ父の帰りを待ち続けている。なんと素晴らしいことだろうか。あまりの素晴らしさに笑いが止まらない。


 ケラケラと笑い続ける母を、子ども達は得体の知れないモノを見るかのように母を見ていた。いずれ、桜も冬彦も全てを知り、父のことを軽蔑する日が来るだろう。それが早いか遅いかの違いこそあれ、必ず真実を知る日が来る。だったら、自分が真実を教えても何も問題ないだろう。小秋はそう思った。


「母さん…。大丈夫?」


「そうか、じゃあ三人で暮らそうか? 父さんはね、悪いことをしたから、もう母さん・桜・冬彦の三人とは暮らせないの」


「どうして? 父さんはどんな悪いことをしたの?」


 冬彦が無邪気に尋ねてきた。桜は何か考えているように見える。そして、何かひらめいたかのように突然言い放った。


「まさか、父さん、浮気したの? 嫌だよ…そんなの…。だって、そうなったら、離婚しないといけないんでしょう? ドラマでよく男の人が浮気して、女の人が慰謝料を払ってとか言ってるよ…」


 思わず、鳥肌が立った。桜なりの直感で適当なことを言ったのかもしれない。いや、少女なりに何かを感じていたのかもしれない。限られた情報量しか持ってないはずなのに、その中から見事に正解を導き出すとは…。いくら子どもと言っても、女は女だと小秋は感じた。


「えーっ、父さん、ウワキしているの? で、ウワキって何?」


 一方の冬彦は相変わらず無邪気な調子でとんでもない質問をしてくる。すかさず、それに答える姉の桜。


「冬彦、知らないの? 奥さんがいるのに、他の女性とイチャイチャすることを浮気って言うんだよ」


「じゃあ、今、父さんが他の女性とイチャイチャしているの? だから、今、家に帰って来ないの?」


 小秋は、子どもだからと見くびっていたことを後悔した。そして、子どもの直感や思いつきを、ただ恐ろしく思うのであった。もう、限界だった。この二人のやり取りを見るのは…。


「もう、止めなさい!」


 軽くたしなめるつもりが、思いっきり怒鳴ってしまった…。桜と冬彦は驚いて、恐る恐る私の顔色を伺っている。二人を安心させるために、私は努めて優しい声を出そうとした。


「二人とも、よく聞きなさい」

「……」

「父さんは、桜の言った通り、他の女性と一緒にいます。今は多分、父さんは母さんよりも、その女性の方が好きで仕方ないと思う。だから、もう父さんのことは忘れましょう。もうすぐ、父さんはこの家から出て行くに違いないから…」


 何でこんなことをズゲズゲと子ども達に言ってしまったのだろうか。本当はこんなつもりではなかった。もっと、柔らかく優しく二人に伝えるつもりだった。


 それが桜の思わぬ一言のせいで、話はとんでもない方向へ行き、小秋は思わず感情的になってしまった。


 言葉にしたくなかったことを言葉にされたことで、今まで見て見ぬふりをしてきたものと無理矢理向き合わされたからか…。それとも子どもは何一つ知りやしないと侮っていたのに、実は子どもなりにいろいろ感じ取っていることを知ったからか…。


 小秋の心のモヤモヤは全く収まりそうもなかった。二人の子どもが寝静まった後、冷蔵庫からビールと缶酎ハイを取り出して、残り物のスルメとカマンベールチーズを肴にチビチビと飲んだ。


 酒を飲んだから言って、忘れられるようなことではないけど、飲まないと正気ではいられない。秋の虫の音が、ただ悲しく響き渡っている。


「明日なんか、来なければいいのに…」


 小さくつぶやいた声は、静かなリビングに思った以上に響き渡った。それは痛んだ心に深く突き刺さった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ