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親子二代の離婚  作者: あまやま 想
祖母の葬儀
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心の傷は消えない…

 ゆりは母・緑と電話で辰雄の残念なお知らせを伝える。あの辰雄が浮気をしてしまったなんて…。しかも、浮気相手に妊娠までさせているとは…。それにしても、母はもう離婚してから三十年近く経つのに、未だにこのような話を聞かせなくてはいけないとは…。


 離婚してから、母と辰雄は別々に暮らす事になったが、それでも親子である事には変わりない。だからこそ、何かにつけては辰雄と連絡を取り合っていたようである。また、大人になってからは辰雄とゆりは連絡をたまに取る事にしていた。


 子どもの頃、父と母の離婚のせいで私達はつらい目にあったと言うのに…。離婚した時、一番苦しい思いをするのは子どもだと誰よりも分かっていたはずなのに…。


 だからこそ、幸せな家庭を築くことに力を入れてきた。夫の修平も子どもの頃に似たような経験をしたため、ゆりと同じように家族に対する「欠乏への恐怖」を強く持っている。


 今まで帰るべき家を持っていなかったからこそ、何度も苦しみや悲しみを味わってきた。あの苦しみはある日突然帰るべき家を失った人にしか分からないだろう。どこにも帰る家がないと言う事は、自分のルーツを失う事でもある。


 すべてを満たされている人には、どれほど言葉を並べて伝えても伝わりはしない。極端な話、ある日、突然、父か母が蒸発して、それまでの親戚付き合いが全くできなくなったとでも想像してもらえたらいいだろう。親が離婚して、子どももそれぞれ離ればなれになると言う事は、それぐらい凄まじいことが起きているのと同じだ。


 一人のわがままで帰るべき家を壊された身になってもらいたい。壊した本人はまだ仕方ないと思えるだろうけど、その巻き添えを食らった残りの家族は消えることの無い傷を一生背負って生きていかないといけない。


 今も心の古傷がときどきうずく。若い頃は「傷はいつか治る」と思っていた。誰かと恋をすれば、傷は治るのでは…。誰かと結婚して幸せな家族を築けば、傷は治るのでは…。何かあるたびに傷が治ると信じて疑わなかった。


 しかし、傷は治らなかった。誰かと恋をするたびに、この恋を失ったらどうしようと思うようになった。そんなことを考えた時、古傷がいつもうずいた。修平と結婚してからは、この幸せが突然壊れたらどうしようと考えるようになった。


 そんな時はいつも古傷がうずいた。本当はそんなことなんか考えたくもないのに…。いつになってもその呪縛から逃れられなかった。もう、あの日から解放されることは一生ないのだろう。これからも何かあるたびに、古傷が勝手にうずくのだろう。そのたびに、あの日のことを思い出さずにはいられない。


 今日は傷がうずくどころか、傷から血が流れ出しそうだ。未だかつて、古傷がこんなに痛んだことはない。そりゃ、かつて苦しみと悲しみを共にした弟が浮気してしまったのだから…。


 しかも、浮気相手を妊娠させてしまったのだから…。もう、元には戻れないだろう。きっと、昔の父と母のように家庭を粉々に壊してしまうだろう。そして、桜ちゃんや冬彦君に言葉で言い尽くせないほどの悲しみと苦しみを与えることになるだろう。


 その傷を少しでも和らげてあげることぐらいしか、自分にはできないな…と彼女は思った。本当は弟の辰雄をどうにかして助けてあげたい…。しかし、辰雄のしでかしたことがあまりにも大き過ぎて、もはやどうすることもできない。こうなったら、叔母として桜ちゃんと冬彦君を守ってあげる事しかできないだろう。

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