二章 ノスタルジア・カレー 其の2(中)
そろそろ小説の本題が見え始めます。もう少しお付き合いください。
荒いあらすじ
饅頭少女が覚醒。その後、話の最中にぼくの頭が痛みだしてプチパニックに。
「多少散らかっていますけど気にしないでください。って、ミレイさん?」
頭痛と戦いながら話しかけたが、ミレイさんはソファの横に立て掛けていたショルダーバッグをまさ
ぐっていた。「あった」彼女は小瓶を手に取った。そして中からカプセルを一つ差し出してきた。
「……」
紫と緑のカプセル。
極彩色のカプセルは見るからに毒物。またはドラックの類。薬局にはないだろ絶対。
これを飲めってことだろうか。断る。得体の知れない薬を体内に入れるのには抵抗感がある。学校で「友達との薬の貸し借りはやめましょう」と習わなかっただろうか。
――一気にミレイさんが胡散臭くなった。ミレイさんの正体って麻薬密売人ではないだろうか? 彼女なら可憐な容姿を生かして警察の目を欺くことができそうだ。
訝るぼくを見てミレイさんはそのカプセルを飲み込んだ。
「頭痛が治まる薬です。怪しい薬ではありません。私が保証します」
「ミレイちゃんを信じなよ兄者。心配してくれているんだよ?」
「ほら」
ずいっ、とカプセルを勧められる。
持ち主のミレイさんが口に出来るのだから安全なのかしら。……ストップ。安易に結論を出してはいけないぞぼく。もしかして彼女は既に薬物中毒者のジャンキーである可能性も否めない。廃人にはなりたくない。
あ、やばい、考えすぎでマッチョメンがジェット機に進化する準備体操を始めやがった。スクワットならスポーツジムで頼む。
ミレイさんは躊躇するぼくに痺れを切らしたのかテーブルから身を乗り出して無理やり口にねじ込ませてきた。マッチョメンの殴打によって気力をすり減らしていたぼくはなす術も無く従った。どうにでもなれ。自暴自棄になって並々と注がれていた麦茶をあおる。
「っぷは。――本当に効果あるんですよね?」
「ええ、五分もせずに楽になります。私の愛用している薬です」
誇らしげに瓶を掲げる。
おお! 効くか分からんがとりあえず拝む。ありがたや、ありがたや。……ん?妙な物に目がとまる。
ラベルに禍々しい髑髏が描かれていた。イコール毒物。
『五分もせずに楽になります』→五分以内にあの世行き。
『私の愛用している薬です』→私はこの毒で何人も屠ってきました。
騙された憤りと疑問が生まれた。どうしてぼくが殺される?
「おぬし……謀ったな」違う違う、追い詰められた悪代官のような台詞でどうする。シリアスパートだぞ。気を取り直してテイクツーだ。
ミレイさんの胸ぐらを掴む。「きゃっ」頭を揺さぶられて目を白黒させる彼女を無視して怒鳴る。
「てめっぼくを殺すつもりか!」
ぼくの怒声が窓を震動させた――かったのだが普段から単調で覇気の無い声のぼくには不可能だったようだ。まあ婦女子を萎縮させる位の効果はあるらしい。上から押さえつけるような言い方は嫌いだから気が滅入るが時間が無いので仕方がない。
瓶のラベルを見ていないちぃはこの状況にただあたふたしていた。今は構っていられない。
「解毒剤持ってるんだろ。出せよ」
思ったより自然と言えた自分にびっくり。『解毒剤』を『金』に変えたら完全に田舎の不良だ。冷静を装っているが心臓が早鐘を打っていて手汗が半端じゃない。「必死だな、乙」である。
別にこんな手間をかけなくても胃から吐き出せばいいのだけれど、ぼくは吐くことが苦手なのだ。意識してするとなるとなおさらだ。ミレイさんには申し訳ないが脅すしか思いつかない。切羽詰まっているのだ。そもそも彼女が悪いからしょうがないっちゃしょうがないが。多分ミレイさんは解毒剤を持ってる。毒を盛った本人も同じ物を服用したのだから常備しているのだろう。……というかしていなかったら困る。彼女が所持していなかったらゲロ一択だ。
悠長に考え事をしているぼくは絶命までに助かるか怪しいな。もっと強気でいくべきか。
そんなぼくの焦りを察したのか彼女は安心してください、と透き通った声で言う。胸ぐらを掴んで凄んでいるのに全く怯えていない。優しい笑みをでぼくの握っている右手にそっと両手を添える。
「たしかに智波留さんにとっては猛毒です。脳の活動を鈍らせて殺す成分が山盛りですからから。健康な一般人が摂取したら最悪脳死に至るでしょう。しかし私や歩さんのような脳機能過活動症患者にとっては――」
ぼくの耳にある単語が引っかかる。脳機能過活動症。
なんで、
「なんで! なんでだ! 君が脳機能過活動症って名前を知っている?!」
ミレイさんのシックな灰色のシャツを掴む力がさらに強くなる。