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言伝  作者: バショウ
2/2

第二話‐将介と橋立

ずるずると滑る道路。

百メートル先も見えない吹雪の中、将介は焦りを感じていた。

「チェーンが必要だったな……」

久しぶりの雪道に戸惑いを感じながらも、前の車のライトを頼りにのろのろと走る。

雪道を二時間。

集中して運転しているうちに、青森市街に入った。

おぼろに記憶に残る道筋を頼りに裏道を通り、昔通っていた高校の駐車場に車を停める。

「……寒」

早朝の冷えきった空気が肺を占め、体がぶるりと震える。

さてこれからどうするか……。

将介は一人ごち、タバコに火を点けて歩きだした。

懐かしい通学路、変化した建物、新しくなった駅。

公園は、どうだろう。

学校と家を除けばもっとも時間を費やした場所だ。

近くには七海の住んでいたアパートもあったこともあり、将介は公園に向けて歩く。

薄く雪が積もったブランコ、錆そのものといった様子の鉄棒。

コンクリートで出来た象に腰掛け、タバコを取り出す。

八年前も将介はここでタバコを吸っていた。

「七海……どうしたっていうんだ?」

どれだけそうしていただろうか。

さく、さくと雪を踏む音に、将介は顔を上げる。

彼自身も気付かぬうちに俯いていたようだ。

さく。

将介は呆然として何も言えなかった。

将介の目の前に立ったのは、丈の長い黒いコートに赤いマフラー。

長く腰元まで伸びる黒い髪、冷めたような瞳を持つ女性だった。 そして、その顔は、

「七海……?」

将介と別れた時の七海、そのものだった。

「あ、……久しぶり、だな。俺のこと覚えてるか?」

こくり。無言で頷く彼女。

「大丈夫だったか、えっと……色々あったみたいだけど」

あまりに突然すぎて、将介はなんと言っていいかわからなくなっていた。

懐かしさと、捨てた筈の胸のうずきがぐるぐると暴れる。

「心配したよ……朝飯でもどう、かな?」


「……違うんです」

突然哀しげな表情になり、首をふる彼女。

「なに、が?」


「姉さんは……もうっ」

将介は自分の迂闊さを悔やんだ。

そうか、この子は七海の妹か……。確か名前は……。

「浅湖、ちゃんか」

昔七海の家で遊んだ覚えがあった。

嗚咽と共に頷く浅湖。 ではやはり七海は……行方不明か。

「えっと、お、落ち着いて浅湖ちゃん」

 とりあえずタバコを投げ捨てて肩を叩く。

「大丈夫、大丈夫だから」


「ううっご、ごめんなさい! これを、渡したくて、窓から見えて……」

時折しゃくり上げながらも、落ち着いた動作でポケットから封筒を取り出す。

「え……何?」

白いその封筒は、将介の以前の住所と名前が書いてあったが切手も貼っておらず、出す気があるのかないのか、判断しかねるものだった。 裏には、橋立七海の文字。

「お墓は、立てる事ができました」


「おは、か?」

しばし将介の思考が止まる。

「半年前に……肺のガンで」


「何で」

ハンカチで目元を押さえながら、はい?と聞き返す浅湖。

「何で俺に……」

知らせなかった、と言おうとして思い止まる。

七海にとって、所詮俺は過去の男だった、ということか? 今の俺は、七海と何の関係もないんだ。

「いや、何でもな……」


「姉さんは!」

突然の剣幕。

「姉さんはあなたに……!」

怒り、というより憎しみすら籠もった視線に、思わずたじろぐ将介。

「……い、いえ。姉さんのお墓は中央霊園のCの6です。……私は、ただそれを伝えたかっただけです」


「え、ちょっと」


「私は、あなたが嫌いです。憎んでます。姉さんを置き去りにしたあなたと、これ以上話したくないです」

さくさく、と。

雪を踏み去っていく浅湖。

ボケたような表情で公園の出口の辺りを眺めていた将介だったが、手の中に残る封筒を思い出し、慌てて広げた。

【久しぶりに手紙を書きます。

私のこと、憶えていますか? 忘れていたら、この先は読まずに捨ててください。

 こちらには色々ありました。

話したいことがたくさんありますが今は一つだけ。

先日、私は癌だと診断されました。

働きすぎ、でしょうね。

医者には手術を薦められましたが、断りました。

もう成功するしないの問題ではなく、何年余命が延びるか、という話だったからです。

ごめんね、突然。

でも、ここまで書いて、この手紙は出さないことにしました。

だから本音を書くね。

まだ私は将介のことが好き。

大好き。会いたい。死にたくない。 でも絶対会わない。今まで貯めたお金で、少しだけ旅行をするつもり。 でも、もし、偶然会えたら、その時は、いいよね。奇跡が起こったら、いいのに。 じゃあ、またね。】 手紙はそこで終わっていた。するすると流れる涙を拭い、将介は立ち上がる。 奇跡は起こらなかった。そのことを今の将介は知っている。七海は将介と会うことはなかったし、癌も治ることはなかった。

「くそっ! くそ! くそぉ……」

怒り、そしてやるせなさのあまり、近くに立っていた木を殴り付ける。

殴る。殴る。殴る。 血の匂いを感じて、手を止める。

「……いてえ……ああぁ痛えなあ」

木に背中を預けずるずると座り込む。

十分、二十分。



「…………よし。行くか」



尻が冷たくなるのを感じ、つぶやき立ち上がる将介に、涙の後は残っていなかった。





「……ここか」


Cの6。

橋立家の墓。


先程買ったユリを置き、目の前の草むらに座りこむ将介。


「七海よぉ」



タバコを取り出しかけ、七海の死因に気付く。

握り潰しポケットに戻す。


「高校からタバコ吸っていた俺は無事で、お前が死んじまうなんてなぁ」




思い出す。


タバコ?そんなん吸ってどうするの?キスん時苦いからやめてよ。

つーかやめろ。

……努力するよ。


「今、俺が勤めてるとこ……すげーんだぜ」



所長に頼めばなんとかなったかもしれない。


今将介の心にあるのは、後悔。

ただそれだけだった。


「まぁ、いい。お前が決めたことだからな……。もうここにはこないよ。俺が死んだらまた、会おうな」






「あ、所長? こっちの用事は終わりました」



『将介くん? ご愁傷さまだったわね』


「いえ。いいんです。人はいつか死ぬものですから」



『そう……うん、そうよね』

「何とか明日には間に合いそうで……」


『あ、ちょっと待って、帰ってこないで』

「え」


クビだろうか。将介の背筋が凍る。

『今、青森でしょ? そっちで新しい能力者がいるみたい。スカウトお願い』

「あ、ああ。はい。わかりました。じゃあ待機でいいですか」


『うん。明日にでももう一人送るからしばらく休んでて』

ちょっとした好奇心からだった。将介は聞く。

「どんな奴です?」


『種類は、“透明化”、二十六歳。名前は……橋立七海。きみの……』

ぷつり。勝手に携帯の電源が切られた。

誰かが後ろから電源ボタンを押した様に。

「……だぁーれ、だ?」


強すぎる程の力で押さえてくる手の感触。

冬の空気で冷やされた、見えないその手を振り払い……将介は大声で笑った。

とりあえずごめんなさい。やっぱ切ない話は無理でした。基本的に書きながら考えていくタチなんで、騙された馬鹿!とか言わないでくださいぃ。短い話ですが、読んでくれてアリガトウございます。

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