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言伝  作者: バショウ
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第一話‐将介と暁

「七海、行方不明になったって話、聞いたか?」


「はあ!?」

久しぶりに会った友人との、酒の席で出た台詞。

言った本人にしてみれば大したことはない話題の一つなのだろうが、同席する将介にとってはまさに寝耳に水。聞き流せることではなかった。

「七海って、橋立七海か?」

どういう事だ!、と叫びたいのを堪え、水割りを口に運ぶ。

 ああ、と、暁は何事も無いようにタバコをふかし、

「あ、そういやお前……」

と、将介に向け探るような目を向けた。

「いや、いやいや。昔の話だよ」

七海と将介が付き合っていたのは八年前。

高校生の頃だった。

ただ漫然と過ごしていた高校時代で、七海といた時だけは楽しかった。

大学組と地元組で別れてしまってそれきりだったが、将介はいつもどこかで七海の事を気に掛けていた。

「ただ、気になるってのは、別におかしくはないよな」


「……ん。まぁな。つまり知りたいのか?」

焦らすような態度をとる暁。

「そりゃ、ね」


「ふーん」

そ知らぬ振りでタバコをふかし続ける暁が憎らしい。 何が望みだ?

「あー。……どうかこの無知な私めに御教授願えませんか?」


「……なあ、場所変えようぜ」

暫しの間を置いて呟いた暁の表情は、暗く沈んでいるように見えた。

わざわざどこに行くのかと思えば、すぐ上の階にあるショットバーに案内された。

「何がいい?」

「何でもいいよ」

気遣うような言葉遣い、哀れむような視線、暁の全てが今の将介には欝陶しく感じた。

「レッドアイに、スプモーニ」

バーテンに告げた暁は、カウンターの隅に腰掛ける。

「で、どうしたってんだ」

あくまでも話そうとしない暁に焦れ、問い詰めるような口調になってしまう。

「まぁ待て、すぐにくる」

いったい誰が、と聞き返しそうになって、飲み物のことだと気付く。

荒っぽくタバコの包みを開け、暁のライターで火を点ける。

禁煙中だったが関係ない。

どうやらあまり愉快ではない話のようだし、タバコの一本や二本吸ったって構うものか。

「お待たせしました」

バーテンの声と共に音もなくグラスが置かれ、将介は無言で促した。


「伝聞だから完全な真実とは限らないけど」



そんな前置きから始まった暁の話は、ごくありふれたものだった。


地元の情報誌のライターになった七海は、入社から三年が過ぎた頃に上司と付き合い始めた。


それから三年。


編集者になった七海はしきりに家を見せることを渋る上司を不審に思い、問い詰める。


結果、上司には家庭があり、それを捨てる気はないということを聞き出した。

「それが原因で失踪か?」

相づちのつもりで口を挟んだ将介だが、暁は静かに首を振る。

「時間が合わないだろ。それに七海はそんな女だったか? ……それから」

それから七海はおとなしく別れ、程なくして会社も辞めた。

しかし折り悪く両親が事故を起こし、二人とも亡くなってしまう。

遺された妹のために、今度はフリーのライターとなって生活費を稼いでいた。

「……これが一年前までの話だ。突然ふっ、といなくなっちまったらしいよ」

将介には何も言えなかった。

とっくに結婚して幸せにしていると思っていたのに。

「失踪の原因なんてわかりゃしねぇ。妹さんの卒業、就職が決まって緊張の糸が切れたとか、もしくは単純に旅行かもしれないな」


「……帰るよ」

立ち上がり、コートを羽織る。そんな将介を暁があわてた様子で引き止める。

「お、ちょ待てって! 明日休みなんだろ?」


「休みでよかった」


「……まさか七海探すわけじゃねえよな」

 ぴたり、と将介の動きが止まる。

「やめとけって、七海だって大人だ。お前はあいつの何なんだよ」


「……はは、勘違いするなよ。暁くん。俺はただ偶然に何となく田舎の空気を吸いたくなっただけだよ? いやだなぁ」

「ふーん。もう電車は出てないんじゃないか?」

「車で行く」

 幸い将介はまだスプモーニにも口をつけていない。

居酒屋でもビールを一杯しか飲んでいなかった。

「……そうか。なら青森なんかが良いんじゃないか? 空気が澄んでて。寒いけど」


「偶然だな。俺も久ぶりに雪が見たくてね。寒いけど」

は、と小さく笑い合い、将介は早足で出口へ向かう。

「余計なことを言った。……すまないな」

後ろから響く声に片手を上げて答え、ドアを閉め。

将介は走りだした。

車は……近くの駐車場。

走りながら鍵を開け、頭に地図を思い浮べる。

青森まで……十時間といったところか。

呟き、車に乗り込みながら事務所に電話をする。『はい、こちら有明……』

「ああ杉沢さん!? 俺です将介! 親戚に不幸があって今から地元に戻るところだけど、土産は何がいい?」

電話番の杉沢の台詞をさえぎって一息に告げる。

「……城崎将介さんですか?」


「そう! ごめんね急で。段ボール一箱リンゴ送るから、じゃ!」

あ、と慌てたような息使いが聞こえたが、将介は容赦なく電話を切り、電源も切った。

重要なのは連絡をしていた、ということだ。

所長は寛大な人だし、無断欠勤にはならないだろう。

給料は減るだろうが。 だが後顧の憂いは断った。

「七海、か」

呟いてエンジンをかける。

……まだ将介自身にも、何がしたいのか、何をすべきなのか、何もわかっていなかった。

世界は他の話とつながってますが、将介クンには何の力もありません。ただのサラリーマン探偵です。短篇で終わらせるつもりでしたが、長くなったので続きます。なんとなく切ない話が書きたくなってしまいました。巧くできれば良いのですが……。

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