「本当の声は?」2
珍しく、山口君から電話が来た。
小娘じゃあるまいし、あたしは長電話は好きじゃないので(毎日生の声聞いてるしね)滅多に受話器越しの声は聞かない。
―俺、何か悪いことした?
ああ、この「受話器越し」って反則だわ。
声のトーンが落ち着いて聞こえちゃうし、しかも耳元。
人様には言えない「どこか」での会話みたいじゃない。
悪いことされたわけじゃない、あたしが勝手に観察して勝手に気にしてるんだ。
彼が「他人に見せたくない」心の動きを見ようとして。
弱みを握りたいわけでもないのに。
―山口君とは別件で、モノ思うところがあって。うん、本当に気が乗らないだけだって。ごめん。
すらすらと出てくる言葉で、あたしは何をしたいんだろう。
あたしの本音はあたしにも見えない。
このまま続けていこうって決意もないのに、別れる気もない。
―うん、何でもないの。大丈夫。
―それならいいけど。おやすみ。
とても優しく聞こえる言葉に、山口君の本当の声は入ってるんだろうか。
彼の誘いを断ったからと気にして電話してきたのだとしたら、あたしが何を考えているのか気にしているってことなんだろうか。
イベントに現れたのは、津田夫妻だけじゃなかった。山口君付き。
フラワーアレンジメントなんかに付き合って、いたたまれない津田君が呼んだらしい。
どこまでもお子様なヤツ。
そういえば、山口君と沢城は微妙に仲良しだった。
津田君の子供は人見知りみたいで、沢城の胸にしがみついたまま顔を隠してる。
「身長が津田君で性格が沢城だといいねー」と言ったら、「ウチでその話した」と笑う。
ずいぶん柔らかい雰囲気になったな。
フリンしてた時は、なんか痛々しくて棘々しかったのに。
「慧太、暁くん抱っこしてて」
なんて普通の会話がまさに夫婦で、ほほえましい。
・・・と思っていたら、もう一人私と同じように思っている人、発見。
津田君に渡された子供の指握りながら、表情が「羨ましい」全開なんですけど。
相手が津田君な分だけ気を抜いてるんだろうけど、それはちょっとびっくりするような願望だね。
結婚なんて、したいと思えばいつでもできたろうに。
尤も、あたしは山口君と結婚したいと思ったことはなかったけど。