「本当の声は?」1
「今日は?」
本当にこれだけの社内メール。
「やめとく」
あたしの返事もこれだけ。
一週間のうち、2回目のお断り。
悪いけど、本当に気が乗らないの。
三枝さんは変わらず仕事熱心なので、設備施工部のオジサンたちにも慣れてきて、可愛がられている。
先日の「若手の飲み会」で打ち解けたらしく、女の子たちにも受け入れられつつあって、楽しそうだ。
彼女が「女の子」をアピールしないタイプなので、男の子と話し込んでいても、誰も気にしない。
誰もかどうかは、疑問だけど。
本当に気にしてない?
自分が気にしていないと勘違いしてるのと違う?
未消化の感情って、すぐには消えないでしょ?
あたしはとても意地悪く山口君を観察する。
綺麗な顔、如才ない営業報告、ちょっとだけ人の悪い後輩へのちょっかい。
それはどれだけ自分を押さえつけて作り上げたキャラクターなの?
面白がりなのは知ってるけど、それも本当は「フリ」なんじゃないかと思う。
「あ、津田君、良かったらこれ沢城と来て。ずいぶん前に興味があるっぽいこと言ってたから」
フラワーアレンジメントのイベントの葉書。
「え?今はちょっと習えないんじゃないかな。でも出かけるだけで気晴らしになるか。子供連れてっていい?」
「習わなくても体験レッスンだけ参加できるよ。あたしがその間くらいは抱いてる」
「土日なら、俺がいるから大丈夫。瑞穂にもたまには気晴らしさせないと」
山口君が会話の中に入ってくる。
「お、ずいぶん夫婦者らしいオコトバ。仲いいねえ」
「野口、ちょっと見てくれる?」
指差したモニタの表計算ソフトの隅っこに打ち込まれた文字。
―何か機嫌悪い?
そのままキーボードを借りる。
―別に。気が乗らないだけ。
そしてenter。
その後津田君に沢城の近況聞いたりしてるなんて、あたしもタヌキっぷりが板についてきてる。
ああ、いやだ。
何の約束もないのだから、おしまいにするのは簡単にいつも通りに言えばいいのだ。
「しばらく、やめとこ」
今回に限って、それを言わないのは何故だろう。