「鶴が機を織ってる」4
二次会に流れる途中に山口君はすっと隣に寄ってきて、ものすごくナチュラルな口調で言う。
「帰る?」
いつもならここで、何気ない顔してふたりで抜けるとこ。
私も前を向いたまま笑顔で答える。
「やだ」
冗談じゃない、舐められたもんだ。
見縊られるにも程がある。
狙いをつけようかと思った女に相手がいるからって、すり替えようとしてるとしか思えない。
ああ、今まで気がつかなかっただけで、そんなこと何回もあったのかもしれないね。
実は、あたしもあったけど。
だけど、今回は見えちゃってるんだもん。
手を出したとか口説いているのを見たとか、そんな問題じゃない。
あたしよりも三枝さんに目が行ってるのが見えてるんだもん。
そんな男とふたりで飲んだりベッドに入ったりして楽しいはずがない。
山口君が三枝さんに「興味を示した」だけなら、なんともない。
でも、誘うのをためらったり、彼氏いるの?なんて気軽に聞けないのは、結構マジに考えてたってことだ。
計算高い彼は、彼女をじっくり観察してから動き出そうとしていたに違いない。
仕事を進めるときと同じように。
その出鼻を挫かれちゃったからって、あたしに声をかけられたって。
三枝さんと何かあったとしても、それは仕方ないと思ったかもしれない。
今までの何回かの別れの中で、お互いに別の相手を見つけたっていうことはあった。
それはそれ、流れの中でしょと思っていたんだけど。
自分の感情のすり替えに、あたしを使うな。
二次会に向かう集団から抜けていく山口君の姿を見送りながら、あたしは後輩と新しくできたエスニック料理店のランチのメニューについて検討していた。