「鶴が機を織ってる」3
いわゆる「若手だけの飲み会」に三枝さんを連れてきたのは、津田君だった。
仲良しグループに入りきらない人は誘いが行かないことが多くて、それに気がついて拾うのは、大抵の場合山口君なのだけれど、三枝さんにはそれをしなかった。
気がつかなかったんじゃない、そんな間抜けじゃない。
どうした、山口肇。
あたしにはバレバレの意識の仕方に、他の人が気がつかない不思議。
いっそのこと本人にツッコミを入れてしまいたい衝動にかられる。
「気になるのなら誘ってみればいいじゃない」
言わないけどね。
若手社員って括りの中ではもう長老格になってしまっている山口君とあたしは、飲んでいる場所では調整役になってしまうことが多くて、息抜きの場所で息が抜けないことも多い。
正社員と派遣さんの間に微妙な溝をつける人もいるし(派遣さんを呼び捨てっていうのは難しい)その日のノリが合わなくて、ぽつねんと座っている子もいるから。
三枝さんは、思いの外浮いてなかった。
オンとオフの切り替えはできる子らしい。そして、大層お酒が強い。
津田君が(いつものごとく)ケータイの子供の写真を見せるのにつきあっている。
山口君もいつも通り。
「山口さん、聞いてくださいよう」なんて甘えてくる人を男女共々捌いてるし。
彼氏との惚気を垂れ流す後輩の相手をしながら、あたしも三枝さんに話を振る。
「三枝さんはいくつだっけ?彼氏、いるんでしょう?」
山口君の神経がこちらを向く気配を肩に感じた。
「26歳です。彼氏はね、大学の頃からの腐れ縁というか・・・まあ、いいじゃないですか」
「あ、いるんだ。三枝さんってそういう気配感じさせないから、フリーかと思った」
「私、色気ないですもんね。彼氏にもよく言われます」
あははっと笑う三枝さんに照れは見えなくて、女から見ると「さっぱりした子」に見える。
自分には寝る男がいるんだとはしゃぎまわって吹聴する女より、よっぽど感じいい。
背中を向けている山口君は顔色ひとつ変えずに、いつものペースで飲んでいるだろう。
残念だったね。
安定した相手がいる女に手を出す程、山口君はリスクを計算しないで動くことはしない。