「あたしの座る場所」2
お正月に律儀に実家に帰った山口君と入れ違いで、姉一家が我が家に訪れる。
「あゆちゃん、結婚しないの?」
余計なお世話。
短大を出て大手の一般事務から専業主婦になった姉は、口を開くとそればっかり。
あたしがお姉ちゃんの幸福に口出ししてないんだから、お姉ちゃんもあたしの生活に口を出すな。
母は、あたしが三十歳の誕生日にとんでもないことを言った。
「あゆにはあゆの人生があるからね、結婚ばっかりが幸福じゃないわよね」
それも、余計なお世話。
誰がしないって言った。
あたしと山口君の遅ればせながらのやり直し恋愛は、まだ始まったばかりなんだから親や姉になんかとても言えない。
つきあってる人がいるらしいくらいは気がついてるみたいだけど、それについて公言するつもりはない。
横から余計なことを言われると、反発したくなるから。
家族の間って、遠慮がない代わりに配慮もない。
三日の晩に帰ってきた山口君に会いに、四日の朝からいそいそと出掛ける。
明日から、また向かい側の席だってば。
晴れ着なんか着て見せるほど初心じゃないけど、お正月らしくちょっとだけ華やかにする。
若い時みたいに、腕とか足とか思い切って出せないけど。
山口君の実家は帰郷というほど遠いところではなくて、疲れた顔はしていない。
「酒ばっかり飲んでゴロゴロしてたら、身体が鈍った。ちょっと歩く」
表参道をブラブラ歩いて、明治神宮に入るとまだ初詣でで賑わっている。
「ちょっとお賽銭はずんで、神様に頼みごとしてこう」
山口君がなにやら熱心に拝んでいる真剣な横顔を見たら、おかしくなった。
「笑うな。できたばっかりの部署が役に立たねーってすぐに解散になったら、どうする」
「怖いの?」
びっくりして顔を見てしまった。
「怖いよ。実験に使われるんだもん。これでできるってメンバー厳選したって、設計事務所に上手く売り込めるかどうか勝負だし」
山口君、こんなこと言うんだ。
あたしにこれを言うんだ。
「真剣な顔してるときに、ごめん。今、すっごく嬉しい」
「野口のフォローがないのは、ちょっと寂しいかな。三枝さんに頑張って覚えてもらうけど」
「いつから、三枝さんが候補になってたの?」
「俺と津田の間をウロウロし始めた時から。ずっと野口の名前があがっててさ、他の候補探してたの。根性があって、なるべく他の部署と繋ぎやすいヤツ。この業界、女はまだバカにされること多いじゃん。だけど窓口は女同志だから、あんまり他とベタベタしてると困るんだよね」
なるほど、独身女子社員の中では年齢が上位に入っているあたしが候補にあがる筈だ。
「なんであたしじゃないわけ?」
「開発営業部が困るから。特に津田」
やっぱり保育士。