「簡単なことじゃないの」6
ん、津田の家にメシ呼ばれて行ったわけ。
でさ、津田は家の中でもああなの。気は利かないし、不器用だし。
沢城に「子供が増えて大変だね」って言ったわけよ。事実そう見えてたしね。
そしたら、沢城の答えがね、こっちが恥ずかしいんだけど。
「でも、慧太は私と暁を守ろうとしてくれてる。絶対見捨てたりしない」って、まっすぐに言うの。
津田のこと、すげーって思ったんだよ。
これだけの信頼を寄せられてるって小手先じゃないよなって。
仕事での信頼度はイマイチだけどね、あいつは客先で可愛がられてるからいいんだよ。
正直羨ましかったね。
で、俺があんな風に思ってもらいたい相手って考えた時にさ――
どうにかこうにか態勢立て直して、さてどうやって修正しようと思ってたところに「なんで続いてるの?」と来たもんだ。
何考えてんだよって思いながら、俺自身が考えてなかったし。
本当に今更だよな。
二度と口には出さないからな。
ちゃんと聞いとけ。
「まあ、他にもあるんだけどさ」
あたしは本当に、初恋がかなった小さい女の子みたいにそれを聞いてた。
タイミングが合ったのだと言ってしまえばそれまでの、見逃してしまえるような変化だったかも知れない。
これが三十路の男女かと笑われても、仕方ない。
あたしたちはここから何か始まるんだろう。
「ひとつ、聞いていい?」
「どうぞ」
「妬いてるんじゃないんだけど、三枝さんと仲がいいのはなんで?」
これは聞きたい。あたしが山口君を気にしはじめたことだもの。
山口君は考える顔つきになる。
「それも、きっかけのうちなんだけど」
次の朝礼まで待ってくれっていう謎の答えのまま、質問は保留された。