「簡単なことじゃないの」4
何か弱気になるようなことがあったのだろうか。
そう思うと、とても不安になった。
会社ではいつも通りの顔をしているし、服装にも仕事にも変わったところはないのだけれど。
他の女に目移りしたかも知れないとか、明日からはもう部屋に行かないとか、そんなことは常に想定内で、不安につながったりはしなかった。
何か強い感情を持ち寄っていたわけでもないし、関係性を強めようと努力もしていないのだから、ある意味当然なことだと思う。
先日の物件まで、彼が自分で処理しきれない感情を持つとは思っていなかった。
自分の中ですべて消化してしまえる人だと思っていたのだ。
サイボーグじゃあるまいし。
――今週末はその部屋に居たい。
いろいろ考えたら混乱してしまい、山口君の携帯にメールしたのは、木曜日の深夜(日が変わってるから金曜日だ)だった。
週末って、今日じゃない。すぐに返信が来た。
――OK
やっぱり、ひとことの返事なんだけどね。
辛い時に辛いと言わない。
弱いところなんてひとつもないような顔をして、甘えたい時ですら人を喰った言動で。
けれど、もしも山口くんが本当に立っているのも億劫なほど疲れた時、誰かに頼りたくなったとしたら―――
あたしが、それを知っていたい。
簡単なことじゃないの。
「感情を見たい」から、あたしの向かっていく方向は決まっていたのだ。