「簡単なことじゃないの」2
社内メールでの意思確認はやはり簡単で、「今日は?」「大丈夫」それだけだ。
紅葉が綺麗になるのはあと一週間から二週間ってところかな。
山口君のこけた頬は元に戻りつつあるし、津田君を弄り倒すのも絶好調。
すべて元通り。
「最近、三枝さんと仲いいね」
嫉妬じゃないから、言葉は平坦。
部屋着に着替えた山口君は缶ビールのプルタブを引きながら、やっぱり普通の顔。
「確認したいことがいくつか重なってるだけ。気になる?」
「ん?あたしじゃなくって、女の子たちがそう言ってるの。それに、今設備に何か相談事のある物件を持ってないでしょ」
あ、表情が揺れた。
「何か言えないことしてるの?」
じっと顔を見てしまったので、山口君は小さく溜息をついた。
「しょうがねーなー。ひとつだけ、教えとくわ。三枝さん、来期から正社員になるんだ」
「え?特例じゃない。なんで山口君が知ってるの?で、仲が良くなることと関係あるの?」
「関係はあるんだけどさ、今日はここまで。まだ、言わないでね」
人事のことなんて、言わないけどね。
合点のいかない顔で見ていたのかも知れない。
頭を抱えられて、いきなりキスがきた。
そのままカウチに押し付けられると、あとはいつもの手順になる。
慣れた指、慣れた息遣い。
「まいったな。まだ緘口令なのに、喋りたくなっちゃって。どうも最近、野口に見透かされてるような気がするんだよな」
見透かしてなんかないよ。見たいと思ってるだけ。
山口君の肩の線を指でなぞりながら、あたしが知りたいと思うだけで、彼も何か変わるのだろうかと思う。