「気に入ってるから」2
何故横で寝てるんだろう、と不思議に思いながら毛布を半分分けると、もこもこと潜り込んできた。
ちょっと可愛いかも。
じっくり顔見ることなんて滅多にない。いい機会だから、観察しちゃお。
ちょっと甘めの優しい顔、輪郭の整った唇、男にしては細い髪。
口から出るのは少々毒気を含んだ軽いジョークと、後輩への的確な指示、客先への澱みない営業トーク。
身長は平均以上、お腹は出てない。
女の子が社会に出てすぐに憧れるタイプだな。
顔をぼーっと見ていたら、毛布の下で怪しい気配。
「何してるの」
「胸、触ろうと思って」
「許可しません。っていうか、寝てたんじゃないの?」
「顔じっと見てる人がいるから、起きた」
目を閉じたままの癖に、気配を読むイヤなヤツ。
「いや、ベッドで寝てたでしょう。いつの間に移動したの?」
「帰っちゃったかと思って、こっちに来たら寝てたから」
だから隣で寝てるっていうのが不思議なんだけど。
「もしかして、甘えてるの?」
答えは当然のようにナシ。
今まで何回か泊まったことはあるんだけど、いわゆる「相手と上手く合わせられる状態」の時だけで
ひどく疲れていたり時間が慌ただしい時には「一緒にいても楽しくないから」と、パスしてたと思う。
今日だって、長引くトラブルの中で空いた時間なんて特例中の特例だ。
あたしが不機嫌な顔を見せたから?
荒れたなんて聞いた後だけど、仕事では抱えた荷物を放り出すわけに行かないだろうし、それで逃げる人でもないのは知ってる。
それに関しては、何年も一緒に仕事してるあたしだから、信頼してる。
行き詰って自分の感情の行方を見失う、なんてアリなんだろうか。
それとも他に何かあるのか。
「ごはんにしよう」
毛布から抜け出して立ち上がったあたしの声は、多分動揺していた。