「気に入ってるから」1
土曜日の夕方、電話を待って待ち合わせした。
現場帰りの山口君は作業ジャンパーと紙袋にヘルメットで、その格好で外で飲みたくないと言い、会社のロゴを背負っていたらさすがに落ち着かないだろうと、結局一緒に帰ることにする。
「シャワーしたら、外に出る?」
「疲れてる人がそういうこと言わないの。簡単な支度でいいんなら、のんびりした方がいいでしょ?」
「食うものも飲むものも、何もない。冷蔵庫、カラ」
スーパーに寄って、お酒や食料品を一緒に籠に入れてたら、なんだか不思議な気分になった。
普段居酒屋ばっかりだから、ちょっと野菜多めにしようかな、なんて普段なら彼の部屋で料理なんかしないのに。
明日も休みだからと思うと、仕事用の顔が抜けちゃってるんだな。
あたしは今、いい具合に自然だ。
山口君はどうなんだろう。
シャワーの音を聞きながら、山口君のスウェットを借りてお鍋の準備なんかする。
男のひとり暮らしに土鍋なんてないから、ステンレスの小さな鍋って所はご愛敬。
ビールを飲みながら包丁を使っていたら、まだ髪が濡れたままの山口君が小さなキッチンに並んだ。
慣れないシチュエーションだな、調子が狂う。
「何作ってるの?」
「鶏団子」
「下準備できたら、ちょっと座ろう。まだ早いでしょ」
お鍋に出汁を張って、野菜を切り揃えたところでリビングスペース(3畳分くらい)でDVDを眺めてる山口君の隣に座った。
「俺のスウェット、ブカブカだから火なんか使うと危ないな」
そんなこと言いながら、背中から手が入ってるんですけど。
「何してるの」
「脱がそうと思って」
「素面でそれを言うか」
「酒飲むと寝ちゃうかも知れないし」
ふざけているうちにベッドに雪崩れ込む。
山口君の女の扱いは丁寧で、それはキャリアか性格か、多分両方なんだろう。
あたしとのことも、キャリアのうちなんだろうか。
本当に疲れていたらしく、食事前に眠ってしまった山口君を起こさないように、リビングスペースに移動した。
シングルベッドにふたりで眠るのは窮屈だから、後で下に布団を敷かなくてはと思いながら雑誌をめくっているうちに、うとうとしたらしい。
気がついたらカウチの私に毛布がかかっていて、隣に山口君が座って寝ていた。
なんか、ヘン。