「本当の声は?」5
「なんでそう思った?」
「ん、なんとなく、雰囲気で。違った?」
ふむ、と考えた顔の山口君。
やり込めるつもりはないんだよ。怒っちゃいないから。
「違う・・・って訳でもない訳でもないか」
正解はどっちなのよ。
ここで顔を寄せてキスなんかしちゃうのが、わかんないところ、その1だったりもするんだけど。
しかも口封じが目的ではないらしく、手はお行儀良いまま。
話をする気はあるわけね。
「女とか男とか関係なくね、俺はあのタイプに弱いらしいよ。バカ正直に動くヤツ」
「津田君とか?」
「あれは極例。面白過ぎ」
「ないものねだり?」
あ、笑った。
「ないものってことはないでしょう。ちゃんと正直だし努力してますよ、俺は」
「・・・ご謙遜を」
平日の夜にあまり時間はなくて、帰る時間を気にしながらだ。
そうやって考えると「どっちでもいい」じゃなくて「ちゃんとそのために行動してる」になるんだな。
どうしてそうなってるのか、考えたことなかった。
「つきあってる」から当然だと思ってて、それ以外の理由なんていらないと思ってたんだけど。
あたしも、何も考えてないじゃない。
駅まで送ってもらうのは、キマリゴトみたいになってる。
こういうとこ、律儀だね。面倒だからってパスしたりしない。
暗い道で顔を見ないで話すのって、実は結構好き。
「昨日のメール、津田夫妻が羨ましかったんでしょう」
「うーん、まあ、アタリ。途中で暁君が寝ちゃってさ、それを津田が抱いてて、沢城が頼もしそうに見てるわけよ。アテられたね」
マトモに返事が戻ると思ってなかった。
また明日、と手を振って山口君と別れた後、次の機会に尋ねることを思いついた。
返事が戻ってくるかどうかは半々だけど。
――あたしと山口君って、どうしてつきあってるの?
笑って煙に巻かれそうな気もする。