「本当の声は?」4
「今日は?」
向かい側の席でメールってすごくヘンだと思ったのは、最初だけだった。
「うん」
やっぱりひとことだけの返事。
途中でちょっとだけ食べるものとお酒を買って、山口君の部屋に向かう。
ふたりきりになるたびにベッドに入るなんて時期は過ぎていて、飲みながら会社の噂話したりビデオ見たり。
彼は話上手だし、常にアンテナを高く揚げているので飽きることはない。
ただ「なんとなく不機嫌」も「すこし上機嫌」も「ひどく怒っている」も「バカみたいに嬉しがっている」も見たことはない。
常にニュートラルな部分だけを見せられている気がする。
だから、気を許していないのではないのかと思うのだけれど。
ちょっと突付いてみる気になったのは、昨夜の「会いたい」が残っているからだろうか。
「帰りに待ち合わせしよう」よりは、ずっとインパクトが強かった。
「三枝さんにカレがいて、残念だったね」
ちゃんと冗談に聞こえてるか、表情を伺いながら返事を待つ。
「なんで?」
勘違いだったかと思っちゃいそうな、何でもない表情。嘘つき。
「気にしてたじゃない、ずいぶん前から」
あ、今、失敗した。一瞬だけ表情にブランクが出る。
ちゃんと見てるとわかるものだなあ。
「無理して返事しなくてもいいよ。別に、だからどうだって訳でもないし」
ますます意地悪。
これって「認めれば?」って言ってるようなものじゃない。
他の女の子を見てるのを悔しがるよりも、山口君の見えない顔が見たい。
あたしと今、時間を共有しているのはどんな男なの。
何年も経ってから今更な疑問であんまりだけど、間違った欲求じゃないでしょ?
見えなくても続いていたのか、見えないから続いていたのか。