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通知音

作者: しめさば
掲載日:2026/08/09

 これは私が大学生の頃、友人のAから聞いた話です。


 四回生の夏。

 Aが一人暮らしのアパートで眠っていた深夜。

 当時の交際相手だったBから届いたメッセージの通知音で目が覚めました。


『こんばんは』

『いまどこ?』

『家にいる?』

『会いたい』


 Bはときどきヒステリックになる女性だったので、Aは「またか」と思いました。それは発作的なもので、大抵は時間が経てば落ち着くので、眠かったAはスマホをサイレントモードにしました。


 しばらくして再び眠りにつきそうになったとき、スマホの通知音が鳴りました。

 鳴るはずのない音に驚いたAがスマホを手に取ると、実に五百件以上のメッセージが届いていました。


『許して』

『怒らないで』

『寂しい』

『声が聞きたい』


 Aは不思議に思いながらも、Bのヒステリーがいつもより激しいことから、Bに電話をかけることにしました。

 しかし、呼び出し音がいくら鳴っても、Bは電話を取りませんでした。

 電話を切ると、呼び出しをかけていたその間にも、さらにたくさんのメッセージが届いていました。


『会いたい』

『大好き』

『抱きしめて』

『愛してる』


 Aは混乱しながらもう一度電話をかけてましたが、やはりBが電話に出ないので、今度はメッセージで返信しました。


「大丈夫?

 いま電話したけど

 出れる?」


 すると今度は、それに対するBからの返信がなく、今まで届き続けていた大量のメッセージもそこで止みました。


 何だったんだと思いながら、スマホを枕元に置いて、再び布団に入りました。

 ワンルームのアパートの、ベランダに出る大きな窓ガラスにくっつけたベッドで横になり、一度冴えてしまった目を瞑って、なかなか寝付けず悶々としていましたが、しばらくすると意識を失いました。


 ふと、窓ガラスを小石が弾くような音に目を覚ましました。

 ノックされているような、不規則な音でした。

 体感的には眠りについてからほんの数分後のことで、恐る恐るカーテンを開けると、音の正体がわかりました。


 それはカブトムシでした。

 ツノのないメスのカブトムシが、窓ガラスに向かって何度も飛んでぶつかっているのです。

 見ると、光に寄ってきているようで、カブトムシの体は室内から漏れた光に照らされていて、カブトムシもその強い一点の光に向かって飛び続けていました。

 カブトムシが目掛けて飛んでいたのは、窓ガラスとベッドの隙間に落ちたAのスマホでした。

 スマホは懐中電灯の機能がオンになっていて、強い光が窓の外へ漏れていました。


 〈土曜日 2:49〉


 拾い上げたスマホにはそう表示されていました。

 バックライトの眩しい、黒い画面が映っています。

 開かれていたのは写真フォルダで、少し前の時刻で動画が撮れていて、それをループ再生している状態のようでした。

 内容は暗闇を撮影したもので、何も映っていませんでした。

 寝ている間に手が触れて、ライトと動画撮影を誤操作してしまったのだろうと呑気に考えて、そのときはスマホのライトを消し、動画を削除しました。

 しかし、ライトを消しても、カブトムシは窓ガラスに何度もぶつかってきました。

 やがて飛ぶ体力を使い果し、ベランダに転がって動かなくなりました。


 後日、Bが失踪したと聞きました。

 警察から事情を聞かれ、最後にやりとりしたメッセージを見せると、憐れむような表情をされたそうです。


 一人になってから、Aは動画のことを思い出しました。

 写真アプリの中から、削除データのフォルダを開くと、黒い動画データは一つではなく、無数に削除されていました。

 その中の一つを復旧して再生してみると、今までスマホの音量を下げていたので気づきませんでしたが、音声が録れていることがわかりました。


 聞いてみると、女性の金切り声で


 あけてえええええ

 たすけてええええええ


 という音割れするほどの叫びが収録されていたそうです。


 私が話を聞いてから、しばらくしてAは大学に来なくなり、中退したという噂だけ広まって、連絡が取れなくなりました。

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― 新着の感想 ―
なるほど、なるほど・・2号です。 何故彼女はそうなったのでしょう。 虫が怖いコロンは、窓にカブトムシがぶつかっただけで呪いのようです。 そう考えると極上のホラーですね。 (´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥…
なるほど、なるほど・・ ミステリーか、それとも・・ って生意気言ってすみません。
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