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ココロの寄り道  作者: まんたん


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4.私が伝えたかった想い


「二度と話しかけてこないで」


冷え冷えとした目で、私を拒絶するように言われた言葉。

私は、ただ唖然とすることしかできなかった。

結局、まともな会話が出来なかったと自分の不甲斐なさを恥じた後。


私は⋯



「待ってー!」


現在、公園で天霧さんと仲睦まじく、追いかけっこをしています。


「だから!貴方とは二度と話さないって言ったでしょ!追いかけてこないで!」


嘘です。ごめんなさい。

あまりの息の苦しさに、ズキズキ痛む脳が勝手に現実逃避を始めていただけです。


今の私たちは、仲睦まじくも、楽しんでるわけでもない。

私が全力で追いかけ、彼女が全力で逃げている。時間はどれほど経ったのだろうか。


「はぁ、はぁ!」


何でこんな事になったのか。

私は彼女の背中を見ながら思い出す。

そう、経緯は至ってシンプル。

一度の拒絶で引き下がれるほど、私が聞き分けのいい人間ではなかっただけ。


あの後も、あの手この手を使ってアプローチを重ねた。そして放課後、彼女が校門を出るタイミングを見計らって立ち塞がったのだが、彼女は華麗なフットワークで私をかわし、そのまま走り出した。

それを今、私は必死になって追いかけている。



「はぁ、はぁ……そこまでするなんてっ……」


息を切らしながら公園を抜けると、彼女は草の生い茂る獣道へ。

私も意を決してその獣道を越えると、今度は、住宅が隣接した迷路のような小道に。

彼女が十字路を右に曲がるのを見て、私も追いかける。


「曲がり角に、人!」


「…え!うそっ!?やっば!」


彼女の突然の忠告に、私は心臓を跳ねさせて急ブレーキをかける。

転倒しそうになりながらも踏みとどまり、恐る恐る角を曲がると、そこには誰もいなかった。


「え?もしかして嘘ついたの!?」


「ええ!うそよ!」


「嘘でしょ!?割と本気でびびったよ!」


でも確かに、かもしれないダッシュは大事だと思います。

天霧さんの事しか考えてなくて、周りが見えてなかった。

そういえば、天霧さん‥学校と雰囲気が違うような…楽しそうに感じた。

走るのとか好きなのかな。



私はまた思考が現実逃避を始めながら、足音を頼りになんとか追いかける。

次のT字路を左へ。今度は念のため、速度を落として慎重に曲がった。


曲がった先には、道沿いに佇む一人のおばあちゃんが。


ゆっくり曲がって正解だった。

私はおばあちゃんに「こんにちは」と軽く会釈をして通り過ぎようとした、その時。


ぐいっと、腕を掴まれた。


「ひゃっ!?」


危うく後ろにひっくり返りそうになる。

このおばあちゃん、腕力強すぎない!?


「あんた、あの子の友達かい?」


「え?えっと、まだというか、今からなりたいと思ってます。そのためにも、今すぐに追いかけないと見失うというか…」


視線を道路に向けると、彼女は十字路を右に曲がっていき、足音も遠のいていく。

早くいかなきゃと思いつつ、このまま駆け出すのもおばあちゃんに申し訳がないと、心の中で葛藤していると


「それなら、ちょうど良かった。これをあの子に渡してやってくれないかい?」


「えっと、これは?」


丁寧に包装された袋を手渡される。裏にひっくり返すとそこには、古風ながらも気品を感じさせる書体で『激・梅干し』と書かれていた。



「あの子はね。月曜日には、決まってここを通るんだけどね。……この前一度だけ話をした時、『もう二度と話しかけないで』って、振られちまってね。たぶん、わたしの言葉があの子の何かを傷つけたんだろう。だから、お詫びにこれを、彼女に届けてやってくれないかい?」   


毎週、月曜日。

ただの帰り道なら毎日通るはず。

特定の曜日だけここに来るということは、目的が他にある。

私は菓子を受け取り、おばあちゃんが向ける視線の先、小高い山の頂上を見上げた。


「そう、彼女はあの小山の頂上に向かってるはずだよ。こんな地味な所に来る理由なんて、あそこに行く以外に考えにくいからね」


「……分かりました。私に任せてください! おばあちゃんの思いは、私が絶対伝えます!」



***



「何これ⋯ロッククライミングかな⋯」


おばあちゃんと別れてたどり着いた先に待っていたのは…

あまりに険しい、岩場のような階段だった。

一段一段の段差が高く、ぼこぼこしていて頂上まではかなりの距離がある。


おばあちゃんとの立ち話で少しは呼吸が落ち着いたけど、これは聞いてない。

てか、これ人を登らせる気がないじゃん!何かの修行でしか使わないよ!


「まあ、泣き言言ってしょうがないよね。それなら、頑張るしかない!」


自分を鼓舞し、今までこんなに腿を上げた事があったかな?と思う位には、腿を上げて斜面を這い上がる。

上り始めてから、約30 分、やっと視界が開けた。


「はあ、はあ、はあああ。……やっと、着いた……」


頂上に着くと、木製のベンチに彼女の姿が。

彼女は、夕陽を浴びながら、景色を眺めている。

それは、まるで一枚の絵画のように美しく思えた。



「⋯まさか、ここまで来るなんて。ここの階段を見て諦めるかと思ったのだけど」


私は、息を落ち着かせて、カバンから先ほど貰った袋を突き付ける。


「おばあちゃんとの約束もあるし、そもそも私は、本気で貴女と話したいから、邪な理由なんてないよ。

これ、おばあちゃんからあなたに。この前は一方的に話してごめんねって、貴女のことを心配してたよ。おばあちゃんからの思い、受け取ってあげて」


彼女の目が一瞬見開かれたが、すぐに冷たい瞳に戻る。


「⋯毒が入ってるかもしれないじゃない」


「本気でそう思ってるの?」


「…」


彼女は否定せず、ただ黙って袋を睨んでいる。


「分かった。私が一粒食べるから、それなら受け取ってくれる?」


彼女は、うなづくことなく、ただ袋を見つめている。

私は袋の中から瓶と割りばしを取り出し、一粒干し梅を取り出すと、迷わずに口に放り込んだ。


「ほら、だいじょっ!? ゴホッゴホッ!!」 


「…やっぱり毒じゃない」


「んんっ。いや、毒じゃなくて、梅汁が喉にダイレクトにきちゃっただけだから。この梅干し本当に美味しいし、種なしだよ?だから……ね?」


彼女は、差し出された袋を数秒見つめた後、渋い顔をしながら受け取ってくれた。


「…いただくわ」


「おばあちゃんにも直接伝えてあげてね」


やっぱり、天霧さんは、他者からの直接的な好意に対して、ちゃんと応えてくれる。

口では突き放すようなことを言っても、根は素直な部分もあるんだと思う。

まあ、私に対しては、それが適応されていないけど。ここから、どう持ち掛けよう。


「…て!今思えば、私と普通に話してくれてる!」


「勘違いしないで。ここの快適さとあなたへの嫌悪感の比重を比べたら、10割がこの景色なのよ。今のあなたなんて、この場所じゃ空気以下だわ。だから、これはただの独り言に等しいのよ」


「ひどい……。

じゃあ、空気以下の分際で勝手言うけど、最近どうなの?

先週から新しい生徒会体制になったり、バイトだったりで忙しい?

周りの人が結構、心配してたよ」


私の問いに対し、彼女は私を睨みつけるように一瞥してから、再び遠くの景色へと視線を投げた。


「近寄りもしない人の慰めなんて目障りよ。

私は、こうして一人で生きて、やるべきことをこなしてるだけ。

この生き方が間違っているなんて思ったことは一度もない。

むしろ誇りに思っている。この歩みを否定できる人なんてこの世に誰もいないのよ」



「…もちろん、私も周りの人だって、貴女の考えを否定したい訳じゃないよ。ただ、その矜持を今後も守り続けられるように、サポートしたいと思ってるだけ。

私は、貴女の歩みを阻止するように絡みつく、苦痛を取り除きたいの。

もし、今のままの生活が続いたら―「貴女だけには言われたくないわ」えっ?」


「聞こえなかったの?貴女だけには言われたくないって言ったのよ」


天霧さんの瞳が、生徒会室で会った時以上の鋭利な嫌悪感を帯びて私を見つめている。


「貴女のほうが、ずっと前から……。目の下にコンシーラーなんて塗りたくって。入学した時から見ていたわよ。誰も参加したがらないボランティアや、ただの雑用の荷運びを先生に押し付けられて…学級委員長の決定だってそう。無理やり仕切るように求められて、体よく使われているだけなのに…貴女は文句ひとつ言わずに全部こなして……」


「……」


「私よりも先に、貴女のほうが壊れるのは目に見えてる。それなのに……!」




「それなのに、いつもいつも、自分だって苦しいくせに平気な顔でヘラヘラして……! 自分のことを気遣えもしない女が、私に指図しないでよ!!」


彼女の言葉は、痛いほど心に刺さる。

コンシーラーで隠したつもりだった隈も、体に積み重なる疲れも、彼女にはすべて見透かされていた。私の気の緩みで、妹にまで心配をかけてしまった昨日の記憶が蘇る。


「…私は、確かに自分の管理不足で、周りに迷惑をかけたよ。

けど、今の私には、心落ち着く場所があって、私のことを想ってくれている人に気づいたの。

貴方にだって、この場所がある。それなら、後は貴方をサポートする人がいれば…きっと大丈夫だから」


「今の貴女から、サポートなんて受けたくないわ。自分を大切にできない人間に、他人の面倒を見る余裕なんてあるはずがないでしょ」


「前はそうかもしれないけど、今はあるの!」


「嘘よ!そもそも…まともに話したことがない、腹の内も分からない貴女をどうやって信用しろって言うのよ!」


あれも、これも。彼女に伝えたい言葉がうまく形にならなくてイライラする。

そんな自分への苛立ちが限界を超えた瞬間、私は理性をなぐり捨てて叫んでいた。


「じゃあ…!私と友達になってよ!!」


つい、カッとなって言ってしまった。

だけど、この思いは彼女に伝えたかったことの一つ。

これは、琴音さんの依頼を果たすための責務からじゃない。

私の、あまりに身勝手でシンプルな願望。


「は?貴女と私が?まともにかかわったこともないのに?私は貴女が嫌いって言ったのに?そんなの、なれる訳がないでしょ!」


「なれるの! 貴女が私のボロを見抜いたように、私だって貴女のこと、少しは理解できる。……天霧さん。貴女は一方的に助けられるのが嫌なんでしょ? 」


私は一歩、彼女へ踏み出す。


「だったら、友達として支え合えばいい。一方が助けるんじゃなくて、二人で半分ずつ持ち寄って、一緒に立って歩けばいい。……似た者同士の私達なら、取り繕う必要なんてないでしょ?だから…」


だから、なんだ?彼女に一番伝えたいことは?私の思いは?


「……苦しい時も、悲しい時も、死にたくなりそうな時だって

素直に『辛い』ってさ。……言っていいんだよ。

一人で抱え込まなくていいし、誰かに頼っていいの。弱音を吐いてもいいんだよ」


そう、これが天霧さんに、ううん。皆に対して思っていたこと。

誰だって、表に出さなくても心の中で、どうしようもない不満や悩みを抱えこんでる。私は、そんな心に溜まり続ける想いを外に出して、解消させたい。

これが、私の本心。私の矜持。

今こうやって言葉にすることで、初めて自分が本当にやりたいことが分かった気がする。


視界が開けるような感覚。自分自身の思いを伝え、理解できた喜びで、胸が高鳴る。

あとは、彼女からの返事を待つだけだと、彼女に語り掛けようとしたその時――。


体が妙に高揚し、内側からせり上がるような、気持ちの悪い熱を持つ。

その熱は私の意志に反して、口から吐き出される。


「…だから、これから先、私だけを頼ってね。私が、貴女を誰よりも理解して、一番近くで救ってあげられる。だって私以外に、貴女のことをちゃんと見てる人なんて、他にいないもんね?」                                                                                                                                                                                                                                    


――違う。私は、そんなこと……。


「痛っ!」


手に走る痛みで意識が現実に戻る。

私は、いつの間にか、彼女の手を強く握りしめていて、

彼女は、顔をゆがめながら、バッグで私の腕を何度も叩いていた。


「早く離して!貴女も、結局あの人と同じじゃない!」


「ご、ごめん!急に触れたのは謝る、今の言葉は私の本心じゃないから―」


「近づかないで!」


彼女の瞳に宿っていたのは、明確な「恐怖」と「嫌悪」だけ。


「またそうやって、自分が気持ちよくなるために、自分が助けてあげただなんて優越感に浸りたいだけに、私を利用するんでしょ! 使い終えたら、何事もないように投げ捨てて! 」


彼女は怒りに任せて叫び、カバンを持った手を後ろに伸ばす。


「もう、誰かの快楽装置になるなんて、うんざりなのよ!!!」


大きく振りかぶられたカバンが、私の頭部に叩きつけられる。

先ほど何度も私の手を叩いた衝撃で、チャックが緩んでいたんだと思う。

私の頭に強い衝撃が走ると共に、視界には飛び散った教科書や、プリント、筆箱が。


「っ――」


痛みと共に、視界がブレる中、

それらは無慈悲に、山の斜面を転げ落ちていく。


「⋯⋯っ!」


彼女は、カバンを落としたまま後ずさると、階段に向かって駆け出していった。

残されたのは、地べたに這いつくばる私と、宙を舞う紙たち、それとタイミングよく振り始めた雨だけ。


「……何してるんだっけ、私」


視界が戻った後、地面に落ちていたカバンを拾う。

私は、立ち上がって急斜面を滑り落ちた。

枝が容赦なく、肌を切り、頭がクラクラする。

私は、斜面にある木にしがみ付いた後、自分のカバンに入ってあるビニール袋を取り出して、飛び散ったものをかき集める。


今はこの散らばったものを拾わないと。


拾い上げたものをビニール袋に詰め込みながら、

彼女の名前が書かれた教科書や、私物に目を通して、

自身の愚かさを呪った。


そうだった⋯

私は、焦っていたんだ。もっと時間をかけるべきだった。

でも、何度もアプローチを重ねる中で見た彼女の瞳。あの瞳だけは放っておけなかった。彼女がこれからも、あの瞳を浮かべたまま過ごすと考えると、居ても立ってもいられなかった。


結局のところ、私が学校でゴミ拾いを始めた理由と同じ。

私は、どうしても見逃せない事柄に対して、身勝手な行動を繰り返す。

とんだ、自己中心。

自分の価値観と、自分だけの「正しさ」でしか物事を測れない、どうしようもない化け物。

あながち、彼女が私に…‥‥私に‥‥あれ?彼女は私になんて言ったんだっけ?



雨は、さらに激しさを増して、私の体にのしかかる。

私が、紙類をビニールに入れ、空を見上げていると、ポケットに入れていた電子機器が小さく震えていた。



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