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ココロの寄り道  作者: まんたん


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3. 始まりの出会い

「あとは、あの本棚を⋯」



薄暗い部屋に、自分の声が木霊した。

時刻は、午前6時50分ごろ。周囲に人影はなく、開放的な窓から寒々しい風が入り込んでいる。


私が滞在するこの場所は、四角いロッカーが40個に、机と椅子のセットが38組ある部屋。

つまり、

私が通う紬ヶ丘(つむぎがおか)高等学校の普通棟3階、「1年5組」の教室である。


この教室で授業を受けるようになってから、約半年。はじめの頃は、ガランとして寂しい教室だったけど、今では、掲示板に色とりどりのお知らせが貼られ、ロッカーや机の中には、たくさんの教科書やプリントが詰められている。



物に触れ、これまで繰り返してきた動作をなぞりながら、私は改めて思う。

この約六十平米という限られた箱の中で、38人もの人間がひしめき合い、一日の半分以上を共に過ごしているというのは、なんとも不思議な心地がする。



私はそんな感慨に浸りながらも、ハンディーワイパーを動かして、共同棚の縁や本に積もった埃を静かに払っている。



朝の清掃。

それが、私がこうして誰よりも早く登校している理由。きっかけは、入学シーズンの4月まで遡る。


あの頃の私は、久しぶりの登校で気持ちが高ぶっていたため、早朝から校舎内を歩き回るのが日課になっていた。

 そんな日課を数週間ほど続けたある日のこと。

校舎を巡るなかで、ベンチの隅や植え込み、校舎の裏などに捨てられた菓子袋やプリントの切れ端をよく目にするようになった。

 一度気付いてしまえば、見逃すことなどできるはずもなく、その日を境に、私の朝のルーティンには「清掃活動」という項目が加わったのである。



月、水、金は、教室の清掃を。

火、木には、校舎の散歩兼ゴミ拾いを。



今日は月曜日のため、教室で、掃き掃除と拭き掃除、そして道具の整理整頓を行っていた。


これが、かなり楽しい。

ほとんど人がいない空間で黙々と掃除をする。

普段の騒がしさに比べ、驚くほどひっそりとしている教室は、まるで別世界のようで、つい鼻歌を口ずさんでしまいそうになる。


教室全体を見渡していた私の視線は、ある一点で止まる。


「⋯まだ来てないけど、熱ぶり返したのかな…」


視線の先にあるのは、一番後方の窓側席。

いつもなら掃除が終わる頃、クラスの書記を務める宮城(みやぎ)さんがやってきて、他の生徒が登校してくるまでの短い間、散歩の極意や清掃のテクニックについて熱弁することが恒例になっていた。


 そんなちょっとした仲の彼女は、先週の水曜日から高熱で欠席している。

一応、授業や熱の状態について連絡を取り合っており、日曜日に送った連絡に対して、「登校できそうかもです」と書かれていたが、未だ、教室には彼女の姿はない。


私は、スマホで「大丈夫そう?」と打ち込んでいると、遠くから小さな声と足音が聞こえる。


その音は、静かな学校に大きく響き、だんだんと私のもとに近づいてくる。



「ほんと、次テキトーなこと言って私の睡眠時間削ったら殺すから」


「はいはい、俺が悪かったです」


平謝りする軽やかな茶髪の少年に、不機嫌な顔を浮かべる深みのある栗色髪の少女。

今まで、こんな早朝の教室に姿を見せたことのない二人に、少しの驚きをもちながらも手を振りながら声を掛ける。


「おはよう。成瀬くんに、結衣ちゃん。今日はずいぶん早いけどどうしたの?」



「わあー!おはよう、水瀬ちゃん!」


私の呼びかけに、花丸満点の笑みを浮かべて、挨拶を返す結衣ちゃん。

彼女は笑みを浮かべたまま数歩後ずさると、助走をつけて勢いよくこちらへ駆けてくる。


そして、まるでムササビのように両手を大きく広げ、空中へ高く舞った。


「わあー!」


「わっ!?それ、本当に危ないからやめてって言ってるでしょ」



突っ込んできたその体を、私はなんとかホールドして受け止めていた。

毎度のことながら、彼女の猪突猛進ぶりには、ヒヤヒヤさせられる。


腕の中に収まった彼女は、悪びれる様子もなく顔を上げた。


「いいんじゃん~、別に。てか聞いて!そこのクソ糞のせいでね。朝早く起こされた挙句、来てみれば、朝練休みだったわとか言っちゃてさ、まじでぶっ殺すね」


「したいとかじゃなくて、もう確定事項なんだね…」


「そうなんだよね!」


「だから、ごめんって言ったじゃねえか」


「カスが話しかけんな!

⋯ねぇ!それで、水瀬ちゃんがまた空いてる日があるなら二人で遊びにいかない?」


「まじで怖いよオマエ。ガチの二重人格なんじゃねーの」


「あはは‥、今週はちょっと忙しいから、予定決まったらまた連絡するね。‥‥ところで、まだ成瀬くんとは仲良くできない?」




「⋯水瀬ちゃんのお願いでもそれだけは聞けないの。⋯絶対渡さないから」


「はあー。なんで幼馴染がこいつだったんだ…」


「はあ!?何?私が悪いっていうの?そもそも、アンタが‥っ!?何すんのよ」


「さすがに、そろそろ黙ってもらおうか」


「触んな、痴漢だろ、こんなの。

早く、誰かこの水抜き童貞ゴミカス変態野郎を捕まえてー!!!」


「てめぇ!!!」



「あはは…」



現在進行形で、喧嘩をしているお二人さんの内、少女の肩を掴んでいる男の子が、成瀬(なるせ)(れん)くん。

サッカー部に所属していて、クラスの副学級長。

態度は少しぶっきらぼうだけど、根は至って真面目な性格で、男女問わず人気のある人物である。


一方、成瀬くんの髪を引っ張っている女の子は、佐倉(さくら) 結衣(ゆい)ちゃん。

サッカー部のマネージャーで、互いの都合が合う日に、カラオケに行ったり、私の家に来たり、買い物などをしたりする仲である。


ただ、最近の彼女は、部活を休んでまで都合を合わせるようになっていて。

なるべく、彼女の都合に合わせるようにはしているけれど、私との時間が、彼女の本来あるべき生活を壊しているのではないかと、そんな後ろめたさがいつも付きまとう。



ふと視線を彼らに戻すと、まだ二人は喧嘩を゙続けていた。

 成瀬くんの方は、本気で怒っている様子もなく成されるがままといった風情だけど、結衣ちゃんの方は容赦のない手つきで彼の髪を引っ張り、不満をぶちまけている。


これは、早くどうにか収めないと彼が本当にハゲてしまうかもしない。


私はそんな危機感から、二人の間に割って入り、なんとかその場を仲裁するなかで、来週の日程が決まり次第、三人でカラオケに行くことが決定した。

 そこで存分にストレスを発散してもらい、その後の食事で二人の共通の話題を振れば、きっと盛り上がるはず。……たぶん。



まあ、とりあえず、細かな作戦は今度考えるとして、私にはもう一つ、考えるべき大事なことがある。


私は頭の隅でそのことを考えながら、朝の日直として教室の前へと出た。

 視界の端に映る宮城さんの机には、今日も誰もいない。どうやらまだ熱が引かず、お休みということらしい。









「よし、行こう」


時計の針は、正午を回った。

ここからは、五十分の長い昼休みが始まる。


ここが勝負どころ。

事前の調査で場所は把握しているし、何回か行ったことはある。きっとうまくいくはず。


私は、中央棟1階にある生徒会室の前に立って深く深呼吸をしたあと、扉を軽く叩く。


コンコン


「すみません。生徒会役員の天霧(あまぎり)詩乃(しの)さんに御用があって伺いました。どなたかいらっしゃいますか?」


数秒の沈黙。やがて、短く「はい」と澄んだ声が響き、ゆっくりとドアが開かれる。


「⋯なんの用かしら」


目の前に現れたのは、私より頭一つ分は高い長身の女生徒。肘まで届く黒髪は、単に黒いだけでなく、丁寧な手入れがなされたように輝きを放っている。


そして何より目を引くのは、綺麗に整えられた長い睫毛と、透き通るような白い肌。本当に美しいと思う。


「天霧さんと話したいことがあって⋯今、お時間をいただけないかな?」


「ええ」


「ありがとう。じゃあ、まず私の自己紹介から。私の名前は、み「水瀬莉緒」⋯っえ?」


「水瀬莉緒。1年5組の学級長。

成績は平々凡々で運動神経は少し悪いけれど、人に教えることは上手で、ボランティアとバイトに励む優等生。

6月頃、とある男女関係で険悪になったクラスの雰囲気を、梅雨明けと同時に改善した、『テルテル坊主の擬人化』。

そして、夏休み。ビーチフェスティバルで広まったあだ名は、ちち―「わあああぁ!!」」


つい彼女の声を遮るほどの大声を出してしまった。

でも勘弁してほしい。学校でも、あの名前を聞くなんて考えたくもない。

ん?でも、今広まったって⋯


「いやいや!ちょっと待ってよ!いくらなんでも知りすぎじゃない!?それに最後の広まったって、学校の中じゃないよね!?」


「私はただ、噂通りの善人が実在するのか調べてただけよ。⋯最後のは、お祭りでのことだけど、ここの生徒もかなりいたんじゃないかしら」


終わりました⋯。

もしかしたら、私の知らない所であの名前が呼ばれていると思うと、気が沈みそうです。


「私、全然、善人じゃないけど⋯。

それより、調べてたって、もしかして昨日私の家来てたの?」


「?行くわけがないでしょ。そんなのただのストーカーじゃない。」


「いやいや。今の時点でもかなり⋯」


「何?貴方の素行ついては生徒から聞いたことで、祭りの件にしても、私は単に、労働力としてあの場にいただけの話よ。」


「それはすみません。勝手な憶測でした」


「別に謝る必要はないわ。それより、貴方を調べて分かった事があるの。」


「えっと、それはどのような?」


私は、少し不安になりながらも、彼女に尋ねると、

彼女の瞳が一段と寒々としたものに変わる。


「私は⋯貴方のことが心底嫌いよ。

理解不能なエイリアン。

自己より他者を優先するなんて……自分を後回しにできるほどの余裕があるからでしょうね」


「私とは正反対で、見ているだけで苛立つの。

直接言葉を交わせば、少しは理解できるかと期待したけれど…時間の無駄ね。

二度と話しかけてこないで」





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