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第2部 第3話:量産される聖女と、一点モノの愛
管理局が送り込む複製体たち。リリィと同じ姿の無機質な軍勢に、完璧なフェリシアの計算も微かな揺らぎを見せる――。
空を埋め尽くすのは、無数のリリィの複製体。
「……リリィ、がいっぱい……?」
リリィは恐怖で肩を震わせる。
「大丈夫、微細なバグだけど…私でも完全には制御できない」
モノクルが赤く光る。フェリシアの計算回路はほとんどの複製体を論理的に一括処理できたが、微細な揺らぎが一体だけに残っていた。
「……計算誤差0.3%。この個体、予測不能」
レンチを振っても、微かに空間内で反発する。
「……こんな小さな揺らぎが、敵として存在するなんて」
フェリシアは微笑む。万能感を誇示しつつも、この一体の複製体は「人間の意志に似た偶発性」を帯びていた。
フェリシアはその個体を安全圏に隔離し、残りの数千体を物理的に粉砕・再構築。空から降るのは塵ではなく、魔力の粒子。
「私の世界には、リリィは一人だけ」
リリィの手を握るフェリシア。微細な揺らぎは、二人の笑顔の前では無力に見える。
――完全性の背後に潜む、ささやかな不安。
その小さな揺らぎこそが、この世界を生き生きと「味わう価値ある舞台」にしていた。




