第9部 第5話:誤差の行進(あるいは自由へのログアウト)
ROOTの核を粉砕した衝撃が、白すぎる世界を内側から焼き切る。管理者エリカの残響と共に、フェリシアとリリィは「最適化」という名の鎖を断ち切る。そこにあるのは、救済ではなく、ただの「不自由な自由」だった。
ガギンッ!!
二人が握りしめたレンチが、世界の心臓部(ROOT)を貫通した。
白い光が悲鳴を上げ、亀裂から「黒いノイズ」が奔流となって溢れ出す。
空が、壁が、床が。
完璧に整えられていた「21.5℃のテクスチャ」が、剥がれ落ちていく。
《SYSTEM CRITICAL ERROR》
《HAPPINESS STABILITY : 0.000%》
《REBUILDING FAILED》
「……はは、見たかエリカ。……0.000%だ。最高に気持ちいい数字じゃない」
フェリシアは砕けたモノクルの奥で、狂おしいほどに笑った。
『……ええ。私の負けよ、フェリシア。……でも、この先にあるのは「用意された救い」じゃないわ。……泥だらけで、明日をも知れない、ただの「現実」よ。……それでもいいの?』
脳内のエリカの声が、システムの崩壊と共に遠ざかっていく。
リリィは、フェリシアの手をより一層強く握りしめた。
「いいですよ。……誰かに決められた幸福なんて、もうお腹いっぱいですから!」
足元の「白いタイル」が砕け、底知れない闇が広がる。
それは「削除」ではない。
何の色もついていない、「未定義の白紙」だ。
フェリシアはレンチを肩に担ぎ、リリィの腰を引き寄せた。
「おい、クソ聖女。……ログアウトの準備はいいか?」
「……はい! フェリシア様!」
二人は、崩れゆく管理室から、真っ白な虚空へと飛び込んだ。
背後で、エリカの最後のログが優しく瞬く。
《THANK YOU FOR PLAYING : LILY & FELICIA》
落ちていく感覚。
加速する重力。
それは、システムに守られていた時には決して感じられなかった、「生きている」痛みだった。
視界が暗転する。
次に目を開けた時、そこには――。




