第9部 第3話:違和感の正体(あるいは本物の再構成)
3%の賭けがROOTを焼き切る。リリィの前に現れた「理想のフェリシア」は、なおも甘い言葉で彼女を惑わす。だがリリィは、その美しすぎる微笑みに向けて、迷わず黒いレンチを振り下ろした。
視界が白く爆発し、次の瞬間、世界は「静寂」に包まれた。
足元には、かつての二人の思い出の場所――あの魔導工房が再現されていた。
「……リリィ、もういいのよ」
振り返ると、そこにフェリシアが立っていた。
傷一つない銀の髪。汚れのない軍服。モノクルすら外したその瞳は、慈愛に満ちてリリィを見つめている。
「危ないことは、もうしなくていい。私と一緒に、この永遠の平和の中で暮らしましょう」
彼女が手を差し伸べる。その指先からは、一点のノイズも感じられない。
『リリィ、騙されないで……!』
脳内のエリカの声が、激しい砂嵐に掻き消されかける。
『それはシステムが見せている「最適解」よ。……あなたの3%は、まだ、そこに届いて……!』
「わかってるよ、エリカ」
リリィは、差し出された「完璧な手」を見つめ、そっと自分の手を重ねた。
温かい。柔らかい。……けれど、そこには「爪の跡」も「レンチのタコ」もなかった。
「……フェリシア様。私、あなたに教わったことがあるんです」
リリィは顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。
涙を流しながら、かつてないほど「汚い」笑顔を。
「――計算の合わないバグは、叩いて直せ、ってね」
ガギンッ!!
リリィが隠し持っていた黒いレンチが、目の前の「完璧なフェリシア」の顔面を真っ向から叩き割った。
『……っ、あ、あああああ!?』
悲鳴を上げたのは、フェリシアではない。世界(ROOT)そのものだった。
割れた顔の奥から溢れ出したのは、光ではない。
リリィが流し込んだ「3%の執着」――ドロドロとした黒い原油のような、救いようのない愛のノイズだった。
「……出てこいよ、本物! 傷だらけで、口が悪くて、私を放っておけない……大嫌いで大好きな、私のフェリシア様を返せ!!」
リリィが自らの存在を火に焚べ、世界の仕様書を直接引き裂く。
白と黒が混ざり合い、「灰色の混沌」が空間を埋め尽くしていく。
その混沌の底から、不機嫌そうな、聞き慣れた声が響いた。
「……チッ。朝っぱらから、うるせぇんだよ。……クソ聖女」




