第9部 第2話:エリカの戦慄(3%の賭け)
完璧な未来を拒絶し、リリィはわずか3%の可能性――「不完全なフェリシア」の再構成へとダイブする。脳内のエリカは、その非論理的な暴走に戦慄しながらも、かつてない高揚を感じ始めていた。
コンソールの「YES」を、レンチの石突きで無造作に弾き飛ばした。
火花が散り、最適化された未来のデータが、ガラス細工のように粉々に砕け散る。
『リリィ……! あなた、正気なの!? 今の拒絶で、システムの安定度は40%まで下落したわ。……これじゃ、彼女の魂が「ゴミデータ(ジャンク)」として霧散しかねない!』
脳内のエリカの悲鳴が、警告音と混ざり合う。
だがリリィは、背筋を凍らせるような静かな笑みを浮かべた。
「いいんだよ、エリカ。……あの日々も、別れの痛みも、全部ひっくるめて『フェリシア様』なんだ。……綺麗なだけのデータなんて、一ミリも要らない」
リリィはレンチを両手で握りしめ、ROOTの核――「存在の確率」を制御する最深部の回路へ、黒いノイズを全出力で流し込んだ。
《PROBABILITY TUNING : START》
《TARGET : FELICIA_LOG》
《PROBABILITY : 3.012%... 3.015%...》
「……上がらねえな。なら、私の『命』を上乗せしろ!!」
『なっ……!? リリィ、自分の存在をコンパイルの触媒にするつもり!? 失敗すれば、あなたもろとも消滅するわよ!』
「3%もありゃ十分だって、さっき言っただろ。……エリカ、アンタの演算能力を全部貸せ。……私の想い(バグ)を、強制的に『仕様』へ書き換えるんだよ!」
エリカは絶句した。
管理階層の頂点にいた彼女でさえ、これほどまでに「自分」を投げ打つ計算式は見たことがなかった。
だが、リリィから流れ込んでくる「執着」という名のノイズは、あまりに熱く、あまりに美しく、エリカの凍りついた論理回路を、ドロドロに溶かしていく。
『……ふ、ふふ。狂ってるわ。……最高に、論理的じゃないわね、リリィ。……わかったわ。私の全権限を、あなたの「3%」に全ベットしてあげる!』
リリィの背後で、エリカの残像が巨大な翼のように広がる。
黒いノイズと白い論理が混ざり合い、ROOTの深淵に「ありえない未来」の回路を無理やり繋ぎ合わせていった。
《SYSTEM OVERLOAD : 99%》
《REBUILDING...》
「……見つけた。……そこにいんだろ、クソ管理令嬢!!」
リリィの絶叫が、世界の理を真っ二つに裂いた。




