第9部 第1話:最適解の拒絶
ROOTが提示する「完璧な未来」。そこには傷一つないフェリシアが微笑んでいた。だが、脳内のエリカが告げる警告と、リリィの手の中のレンチが、その「正解」を偽物だと叫び始める。
コンソールが、白すぎる光を放ちながら《OPTIMAL FUTURE:CALCULATION COMPLETE》を掲げた。
そこに映し出されたのは、あまりに「正しい」景色。
争いはなく、涙はなく、そして――右目のモノクルすら外した、穏やかに微笑むフェリシアがいた。
「……フェリシア、様?」
リリィの指先が、YESのボタンに吸い寄せられる。
これを押せば、すべてが終わる。あの日々も、別れの痛みも、すべてが「なかったこと」になる。
『……待ちなさい、リリィ』
脳内のエリカの声が、冷たい氷のように響いた。
『私の演算結果を見て。……そのフェリシアは、あなたの記憶から「痛み」と「汚れ」を間引いて生成された、ただの出力結果よ』
リリィは、画面の中の「綺麗なフェリシア」を見つめた。
彼女は優しく微笑み、「危ないことは、しなくていいの」と囁きかけてくる。
(……違う)
リリィの胸に、鋭い痛みが走る。
私の知っているあの人は、もっと口が悪くて、強引で、私を振り回して――でも、その不器用な手の熱さだけは、本物だった。
「……こんなの、フェリシア様じゃない」
リリィは指を引き剥がし、肩に担いだ黒いレンチを、コンソールの黄金のボタンへと向けた。
『リリィ!? 何をする気? それを壊せば、フェリシア復活の確率は3%まで……!』
「3%もありゃ、十分ですよ。……エリカ、アンタも見てろ。私が今から、この『正しすぎる地獄』にトドメを刺してやる!」
レンチに黒いノイズが走り、ROOTの心臓部を照らす。
リリィは、フェリシアから教わった「最悪で最高のデバッグ」を開始した。
ついに最終章です!




