第8部 第5話:ROOT中枢、あるいは二人の残響
最終防壁を突破した直後、エリカの体は限界を迎え霧散する。だが彼女の意志はROOTのシステムへ溶け込み、リリィの脳内へと響き始めた。孤独な聖女は、宿敵の声と共に世界の心臓部を蹂躙する。
「……あ」
リリィの指先をすり抜け、エリカの体が光の塵となって弾けた。
「エリカ……ッ!?」
「騒がないで、クソ聖女。……私はもう、個体としての形を維持できない。……今、あなたの認識領域に直接ログインしたわ」
リリィの脳内に、あの傲岸不遜な声が直接響く。
「……は? アンタ、私の頭の中にいんのかよ。気持ち悪りぃ……」
「私だって不本意よ。でも、これでROOTの深部まで私の『知能』を使えるわ。……さあ、そこにあるコンソールを叩きなさい。あなたの稚拙な暴力を、私が最適化してあげる」
リリィは舌打ちしながらも、目の前の巨大な世界の心臓部――ROOTの核へ歩み寄った。
これまでは「神」だと思っていた場所。だが今は、ただの「書き換え可能なデータ」に見える。
「……ここ、直すんじゃなくて、全部『リリィ色』に塗りつぶしていいか?」
「……推奨はしないけれど、今の不安定な世界には、その程度の『毒』が必要かもしれないわね。やってしまいなさい、私の『代行者』」
リリィがレンチを核に突き立てる。
黒いノイズが走り、世界の「空」の色が変わる。
「21.5℃」に固定されていた気温が、リリィの体温に合わせて23.8℃まで跳ね上がった。
《GLOBAL ADJUSTMENT:START》
《OPERATOR:LILY & ERICA_LOG》
「……ふん、熱いわね。でも、死体のような静寂よりはマシだわ」
脳内のエリカが、どこか満足げに呟く。
二人のデバッグは、もはや世界の修復ではない。
フェリシアという「最大のバグ」を呼び戻すための、世界そのものの改造だった。




