第8部 第1話:最初のエラー
フェリシアが残した隠しログを頼りに、リリィは管理室へ侵入する。しかし最初の標的は、フェリシアそっくりの「偽フェリシア」。システムの完璧な最適解にして、愛を知らない存在だ。
管理室は静かだった。
だが、無数の窓の中で世界が刻一刻と動き、画面の文字が流れる。
リリィはレンチを握りしめた。胸が高鳴る。
「……ここが、フェリシア様の残した場所か」
ログには、淡々と文字が並ぶ。
《HIDDEN LOG : ACTIVATED》
《TARGET : CANDIDATE D》
次の瞬間、窓のひとつが大きく赤く光った。
中には見慣れた姿。
フェリシア。いや、フェリシアにそっくりな何者か。
だが、瞳に温度はなく、笑顔は完全に計算されたもの。
「……偽物……」
リリィは吐き捨てるように呟いた。
胸の奥で、怒りと恐怖が交錯する。
偽フェリシアは静かに振り返った。
「こんにちは、リリィ様。
不適切な誤差は排除します」
言葉は完璧に丁寧で、しかし冷酷。
フェリシアの面影を持つ笑顔は、皮肉にも理不尽さを強調する。
「……その喋り方、フェリシア様への冒涜です。ブチ殺します」
リリィは自然に、フェリシア譲りの汚い言葉を吐いた。
レンチに手をかける指が震える。
偽者は軽く微笑む。
「排除の権限は私にあります。従っていただけますか?」
リリィは深呼吸する。
胸の奥で、フェリシアの記憶が小さく燃えた。
「……火花じゃなくてもいい。黒いノイズで、世界を裂く」
レンチを振るう。
振った瞬間、世界のテクスチャが剥がれる。
白い光が裂け、黒いノイズが渦巻く。
偽フェリシアの瞳が揺れた。
「……予想外……」
レンチが黒い光を散らすたび、世界のログが再起動する。
《ERROR》
《TARGET : CANDIDATE D》
《ACTION : DESTROY》
破壊の瞬間、偽フェリシアの体が光に溶ける。
だが残骸の中で、隠されたログが光った。
『よくやった、クソ聖女。……続き、始めようぜ』
リリィは息を整え、レンチを握り直す。
新しい戦いが、今、始まった。




