第7部 第1話:外側の牢獄
フェリシアは世界の外側へ落ちた。そこは神でも救いでもなく、無数の世界が同時に存在する“編集空間”。彼女は理解する。自分たちの世界は箱庭で、幸福も恋も仕様だったのだと。
落ちた先は、床がなかった。
いや、床はある。
ただ“地面”という感覚が薄い。
踏みしめる感触がなく、重力すら曖昧で、身体がふわふわ浮いている。
フェリシアは顔をしかめた。
「……最悪だな。酔う」
周囲には暗い空間に浮かぶ白い窓。
窓の中には街があり、森があり、王城があり、人がいる。
世界。
世界。
世界。
全部、別の世界だ。
フェリシアは息を呑んだ。
「……冗談だろ」
窓のひとつに目を向ける。
そこには自分が座っている。笑顔で拍手を受ける自分。
違う。
それは“修正された自分”だ。
別の窓ではリリィが最初から存在せず、
別の窓ではフェリシアが処刑されている。
別の窓ではエリカが救世主として崇められている。
フェリシアの背筋が冷えた。
「……世界は最初から複数用意されてる……」
頭上に文字が浮かぶ。
《WORKSPACE》
《PROJECT : PERFECT PEACE》
《STATUS : RUNNING》
さらに文字。
《ADMINISTRATOR : ERICA》
《SUB-ADMIN : FELICIA》
《RESOURCE : SAINT LILY》
《ERROR : UNRESOLVED》
リリィは資源扱い。
フェリシアはサブ管理者。
ここは神の座ではない。
編集室だ。
レンチを握りしめ、フェリシアは笑った。
「なんだよそれ……人間って、データかよ」
窓のひとつが赤く点滅する。
《ALERT》
《WORLD CORE DAMAGE DETECTED》
《PATCHING…》
穴は修復される。
リリィはまだ向こう側にいる。
完全に止めなければ、また動き出す。
「急げ……!」
窓へ手を伸ばすが、指先が弾かれる。
ガラスのような壁がある。
「くそっ……!」
背後から声がした。
『外側に出たのね、フェリシア』
人の形をした存在が微笑む。
フェリシアは唸る。
「……本物かよ」
『本物よ。ここでは私はまだ、人間の形を保てる』
『あなたは禁忌を犯した』
『世界の外側を見た者は、世界に戻れない』
フェリシアはレンチを構えた。
「戻る」
「リリィを連れて」
『無理よ。彼女は仕様に反する』
『あなたも同じ。あなたは誤差』
フェリシアは一歩踏み出す。
「誤差でいい」
「誤差がなきゃ、人間じゃねえ」
外側は自由じゃない。
外側は巨大な檻だ。
管理室には、管理者がいる。
――外側は、あなたの味方じゃない。
第7部スタートです!
怒涛の展開!




