第6部 第3話:聖女の最期(予定)
削除フェーズが進み、リリィは自分の記憶や感情が薄れていくのを感じる。世界は彼女を“資源”として処理するが、フェリシアへの想いだけは消えず、最大の誤差となる。
自分の顔が、思い出せなくなった。
鏡に映る白い髪の少女――でも、それが自分だという確信が薄い。名前も、輪郭も、心の重さも。世界が少しずつ削り取る。
《DELETE PHASE : 3/7》
《PROCESS : EMOTION DILUTION》
胸が空っぽになる。怖いのに、怖いと感じる力すら消えていく。
リリィは膝を抱え、教会の白さに目を痛める。かつて祈りの場だったのに、今は棺桶のようだ。
扉の向こう、神官たちの声が聞こえる。
「聖女は順調に処理されている」
「幸福のためだ」
「祈りは誤差だ」
その言葉が胸を刺す。
小さく笑う。聖女は人の願いを受け取る器。割れてもいい存在。世界はそう扱うのだろう。
《DELETE PHASE : 4/7》
《PROCESS : MEMORY CLEAN》
村の子どもたちの顔が消える。抱きしめた命の感触も消える。優しかった手、泣きながら祈った人――全部が霧になる。
「……わたし、何をしてきたんだっけ」
口にした瞬間、声が掠れる。自分の言葉が自分のものではなくなる。
だが胸の奥に、ひとつだけ熱い塊が残る。
燃えるように残るその記憶――フェリシア。
彼女の笑い声、乱暴な言葉、強引な手、不器用な優しさ。
――守る。
――待ってろ。
――飯にするぞ。
それだけが消えない。
《DELETE PHASE : 5/7》
《PROCESS : IDENTITY ERASE》
世界が最後の一撃を放つ。リリィは息を吸う。頭が真っ白になりそうだ。
だが理解した。
祈りは誰かのための願い。願いは未来を変えようとする意志。意志は世界の計算を狂わせる。
だから世界は祈りを嫌う。だからフェリシアを殺そうとしている。
リリィは立ち上がる。足は震える。でも立つ。
「わたしは……祈ります」
小さく、弱く、それでも確かに。
「フェリシアを……返してください」
「フェリシアを……奪わないでください」
教会の空気が歪み、魔法陣がノイズを起こす。
《ERROR》
《PRAYER DETECTED》
消される――そう思った。
だがリリィは笑った。怖いのに、嬉しかった。
「……やっと、届いた」
遠くで、フェリシアの声が聞こえた気がした――「誤差を、最大化する」。




