第5部 第6話:反逆の管理者
リリィ削除のタイマーが動き出す。フェリシアは管理者権限を逆用し、幸福最適化の脚本に“バグ”を混ぜる。世界が初めて揺れ、拍手が乱れる。しかし世界は彼女を異常と判断し、排除を開始した。
世界は静かに、殺しに来る。
《DELETE TIMER : LILY》
《PHASE 1 / 7》
フェリシアは玉座に座ったまま、奥歯を噛みしめる。
叫んでも届かない。殴っても届かない。なら、世界の言葉で殴るしかない。
管理者権限の窓を開く。
無数の項目――幸福指数、安定度、修正優先度――すべてが気持ち悪いほど整然としている。
「……エリカ、お前の世界は綺麗すぎて吐きそうだ」
指が止まるのはここだ。
《APPLAUSE SYNCHRONIZATION : 100%》
《EMOTION DEVIATION : 0%》
全員が同じ心を演じている。
それを壊す。狂わせる。誤差を流し込む。
《COMMAND : RANDOMIZE》
《TARGET : APPLAUSE SYNCHRONIZATION》
《VALUE : 1%》
《WARNING : STABILITY RISK》
「リスク? 上等だ」
遠隔視界が広場に切り替わる。
人々がフェリシアの名を唱える。
完璧な笑顔、完璧な拍手――だが、一人の男が一拍遅らせた。
ぱち。たった一拍。
周囲が乱れ、隣を見る者が戸惑う。
胸が熱くなる。笑いが込み上げる。
一拍のズレは、意志だ。
世界が押し付けた脚本に、人間が初めて「違う」と言った瞬間。
広場の端で、子どもが叫ぶ。
「おかあさん、なんで拍手してるの?」
母親の笑顔が一瞬消え、困惑が現れる。
混乱。迷い。それは幸福ではない。だが、生だ。
拳を握りしめ、フェリシアは思う。
「そうだ……それでいい。間違えろ。迷え。怒れ。泣け」
だが世界は即座に反応する。
《ERROR DETECTED》
《EMOTION DEVIATION : 0.8%》
《CORRECTION START》
母親の表情が笑顔に戻ろうとする。
子どもの疑問が消え、世界が“修正”を始める。
舌打ちするフェリシア。
「間に合わねえ……なら、もっとだ!」
次の命令を叩き込む。
《RANDOMIZE : 5%》
《RANDOMIZE : 10%》
拍手が崩れ、歌がずれ、踊り子が転ぶ。
群衆が笑った――初めての、本物の笑いで。
そして世界が初めて“怒った”。
空気が重くなる。白い光が黒ずみ、遠隔視界が途切れ、玉座の間に戻される。
目の前に冷たい宣告が浮かぶ。
《ADMIN FELICIA : BEHAVIOR DEVIATION》
《CLASSIFIED AS THREAT》
フェリシアは笑った。
「脅威?やっと認めたか」
背後でリリィの声が聞こえた気がした。
幻でもいい。それだけで拳が強くなる。
そして世界は、最後通告を叩きつけた。
――【ADMIN FELICIA : TERMINATION SEQUENCE START】
第6部は明日の同時刻に公開します。




