第3話:量産される聖女と、一点モノの愛
管理局の禁忌兵器が放つリリィの複製体の群れ。自分が「代替可能」と思い込むリリィに、フェリシアの物理干渉が唯一の答えを示す。
空を埋め尽くしたのは、絶望そのものの複製体だった。
「……リリィ、が、いっぱい……?」
隣のリリィは糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちる。数千もの少女たちが、皆リリィと同じ刻印を持ち、無機質な瞳でこちらを見下ろしていた。
「無駄よ、フェリシア・フォン・アステリア」
管理局の司教が通信魔導具越しに嘲笑う。
「聖女はシステムのリソース。一つが壊れれば、次を回せばいい。君が守るのはただの量産型だ」
リリィの肩が小さく震える。
「そう、ですよね……。私なんて、誰でも……」
言葉が終わるより早く、ガギンッ! と空間を割る硬質音が響く。
フェリシアが魔導レンチを地面に叩きつける。反動で腕に微振動が残る。長時間の干渉は計算精度に微細な誤差を生むが、彼女は瞬時に補正する。
「計算終了。胸糞悪すぎて吐き気がするわ」
空中のクローン群を指差すフェリシア。
「リリィ、聞きなさい。私の演算回路は、君の瞬きも、呼吸の温度も、声の周波数も――唯一の定数として記録している。あんな低解像度のバグと一緒にしないで」
レンチを振るうと、クローンたちは徐々に結晶化し、砕け散る際の残骸は無機質な魔力塵となって工房の装置に吸収される。
「代わりがいるなんて、設計者の傲慢よ。私の世界に、リリィは君一人だけ」
塵が舞う空の下、フェリシアは跪き、震えるリリィの手を握る。熱と体温だけが、デジタルの戦場を超えた確かな証となった。
――だが、砕け散る光の向こう。
一人の少女が不敵に笑っている。
「へぇ、いいコード書くじゃない。前世のJavaよりはマシね」
新たなルールを書き換える者の出現。次なる戦いの予感が、静かに空を揺らす。




