第4部 第2話:祝祭の脚本
祝祭は二日目を迎えた。完璧に整えられた歓声、寸分違わぬ拍手。誰もが同じ言葉で救世主を讃えるその光景に、フェリシアは強烈な違和感を覚える。幸福は、本当に人の意思なのか。
祝祭は二日目に入っていた。
昨日よりも華やかで、昨日よりも整っていて、そして昨日よりも――隙がなかった。
王城前の大通りを歩きながら、フェリシアは露骨に顔をしかめる。
「……完璧すぎて腹立つな」
通りの両側には人が溢れていた。
旗が翻り、花弁が舞い、光の魔法が空中に紋様を描く。音楽隊の旋律に合わせ、踊り子が笑う。
そして全員が、同じ笑顔だった。
隣を歩くリリィは純白の聖衣を着せられている。救世の象徴として用意された衣装なのだろう。
驚くほど似合っていた。
「……その格好、似合いすぎて腹立つ。殴りたくなる」
「殴らないでください!」
頬を膨らませるリリィに、フェリシアは肩をすくめる。
「冗談だ。……まあ、似合ってる」
本音を誤魔化すように前を向いた瞬間、視界の先に巨大な舞台が見えた。
演劇だった。
救世主フェリシアと聖女リリィが悪しき神を討つ――そんな筋書きらしい。
「……おい、なんで私が美少女役なんだ」
「美少女でいいじゃないですか」
「よくねえよ」
舞台の上では、自分を模した役者が大仰に拳を掲げている。
『世界よ! 我が拳で救われよ!』
観客が拍手した。
――同じタイミングで。
フェリシアの足が止まる。
手の上げ方。
叩く強さ。
音の波形。
すべてが揃いすぎていた。
「……気のせいか?」
耳を澄ませる。
隣でリリィが微笑んだ。
「すごいですね。みんな、心から喜んでいます」
「……そう見えるか?」
「はい。平和です。幸せです」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が冷えた。
幸福の光景なのに、気持ち悪い。
フェリシアは群衆に向かって叫んだ。
「おい! 笑えって命令されて笑ってんなら、今すぐやめろ!」
ざわめきが起きる――はずだった。
だが返ってきたのは、寸分違わぬ声の合唱だった。
「救世主に、感謝します」
波のように同じ声が広がる。
そこに個人の温度は一切なかった。
リリィが不安そうに袖を掴む。
「フェリシア……?」
フェリシアはその手を握り返した。
「離れるな。……この世界、優しすぎて気持ち悪い」
そして理解する。
この祝祭は、人々の喜びではない。
誰かが用意した舞台だ。
群衆は再び、同じ声で唱えた。
「救世主に、感謝します」




