第2話:魔導工房と刺客
世界のバグを物理的にデバッグするフェリシアと、命の刻印を解かれたリリィ。新天地には甘くも危険な日常が待っていた。
朝日が銀色の髪に反射する魔導工房。フェリシアは魔導レンチを手に、微細な魔素の流れを最適化していた。
「リリィ、起きて。朝の計算よ」
柔らかな声に目を開けるリリィ。ベッドの周囲には、先日の破砕魔法で砕かれた聖剣の欠片が銀の百合の髪飾りに再構築され、静かに光を放つ。
「…今日も安全ですか?」
「もちろん。この島では世界の理は関係ない。君の笑顔だけがルール」
微笑むフェリシアがレンチを振るうと、空気が微かに震え、温度と湿度が最適化される。だが遠くから、奇妙な波動が工房に届いた。管理局の介入か――フェリシアの右目のモノクルが赤く瞬き、瞬時に計算を完了する。
「リリィ、後ろ!」
空気を切る鋭い音と共に、黒い魔導生物――管理局の刺客――が工房の壁に衝突。衝撃波はレンチを握るフェリシアの腕に反動として伝わる。長時間の物理干渉は計算精度に微小な誤差を生むが、彼女は冷静に動く。
衝撃を吸収・分散させ、刺客を宙で停止させる。さらに魔力計算で浮遊島のバリアを最適化し、刺客を徐々に分解していく。
「聖剣の二の舞はごめん。物理法則を最適化すれば、君を傷つける余地はない」
リリィは息を飲み、震える手をフェリシアに委ねる。
「……世界よりも、私を選ぶのは変わらないのですね」
「計算通りよ。君が笑う範囲が私にとっての世界――他はノイズ」
魔導工房の窓から差し込む光に照らされ、二人は短く抱擁を交わす。だが管理局の影はまだ動いている。次なるバグが、彼女たちの新しい日常を、甘くも危険な色で揺るがそうとしていた。




