第1話:世界(クソゲー)のシャットダウン
断罪の場で聖女リリィを救うフェリシア。
万能チートではなく、制約付きの「物理×魔力×演算」で世界をデバッグする少女の物語が始まる。
「……死ね、リリィ! 神に背く罪人め!」
王太子の絶叫と共に、まばゆい聖剣が振り下ろされる。通常なら令嬢の一撃など粉砕するはずだ。
「――はい、演算エラー。そのコード、美しくないわ」
明るい声が割り込む。銀色の髪を風になびかせ、右目に奇妙なモノクルをはめた少女――フェリシアが指先で聖剣を弾く。衝撃波が島を揺らすが、彼女の腕には微かな振動が残る。長時間の魔力干渉は、計算精度にわずかな誤差を生むのだ。
「なっ……何をした!?」
王太子の手に残ったのは、錆びだらけで刃こぼれした『鉄くず』。
「パッチを当てただけ。神の加護は周囲の魔素を結合した見栄の欠陥コードよ。綻びを突けば中身はこんなもの」
フェリシアは鼻で笑い、震えるリリィに向き直る。
「……どうして、世界よりも私を選ぶのですか?」
リリィが絞り出す問い。自己犠牲を強いられた少女の瞳に、恐怖と信頼が混ざる。
フェリシアはモノクルを軽く鳴らし、微笑む。
「計算が合わない顔ね。私にとっての世界は、君が笑っている範囲だけ。他はノイズ」
魔導レンチをリリィの胸元に当て、魔力を流し込む。ガキンッ、と物理的破砕音が響き、刻印が粉々になる。破片は銀の百合の髪飾りに再構築され、リリィの髪に差し込まれる。
「さあ、欠陥だらけの世界は一度シャットダウンしましょう」
フェリシアはリリィの腰を抱き、突如出現した魔導デバイスに飛び乗る。
「目をつぶってて。運営が再起動する頃には、私たちは新しい世界の設計図の中――」
轟音と共に、二人は重力さえもデバッグし、高く、高く、自由な空へログアウトしていった。




