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悪役令嬢だった私は五年前の双子の妹として転生したので姉を陰から支えます  作者: 月雅


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第7話「二つの道」



私は証拠の束を手に取った。


デビューから四ヶ月。アルヴィン殿下の諜報網が集めた、セレスティナの不正の記録。神殿への賄賂、聖女認定の裏工作、全てが詳細に記されていた。二週間待った甲斐があった。


殿下の書斎で、私は紙の束を見つめていた。


「これで十分だ」


殿下が言った。椅子に腰掛け、私を見ている。


「神殿の記録、金の流れ、証人の証言。これだけあれば、セレスティナを追い落とせる」


私は頷いた。証拠は揃っている。あとは、これをどう使うか。


「問題は、誰がこれを使うかだ」


殿下が立ち上がった。窓辺に歩き、外を見る。


「二つの選択肢がある」


私は黙って待った。


「一つ目。この証拠をヴィオレッタ嬢に渡す。彼女が公の場でセレスティナを告発する。お前の姉の功績になる」


姉の功績。これまでと同じ方法だ。


「二つ目。俺がこの証拠を使う。俺が公の場でセレスティナを追及する」


殿下が振り返った。


「どちらを選ぶ」


私は証拠の束を見つめた。


姉に渡せば、姉は政争の渦中に立つことになる。告発者として、セレスティナの敵として。姉にその覚悟があるだろうか。姉に、その力があるだろうか。


これまで私は、姉に知識を与えてきた。政治、外交、社交術。けれど、権力闘争の最前線に立つ経験は、与えていない。


「姉は、これを使えるでしょうか」


「分からない。だが、機会を与えなければ、永遠に分からないままだ」


殿下の言葉は、正しかった。けれど——。


「殿下。私は、姉を戦場に出したくありません」


口に出してから、自分の本心に気づいた。


姉を守りたい。それは本当だ。けれど同時に、姉を政争に巻き込みたくないという気持ちもあった。姉には、穏やかに、幸せに生きてほしい。


「ならば、俺が使う。それでいいな」


私は頷いた。


「お願いします」


殿下が近づいてきた。私の前に立ち、見下ろす。


「分かっているな。俺がこの証拠を使えば、お前は俺の協力者になる。もう、引き返せない」


私は殿下の目を見た。


「分かっています」


「後悔するなよ」


「しません」


殿下が手を伸ばした。私は証拠の束を、その手に渡した。



離れに戻る馬車の中で、私は窓の外を見ていた。


選択をした。姉に証拠を渡すのではなく、殿下に渡すことを選んだ。


それは、姉を守るための選択だった。けれど同時に、姉の成長の機会を奪う選択でもあった。


本当に、これでよかったのだろうか。


姉は今、私の助言書に頼っている。私が与える知識を、自分のものとして使っている。それは姉を守ることになっている。けれど、姉を自立させることにはなっていない。


私がいなくなれば、姉はどうなるのだろう。


私は目を閉じた。


考えても仕方がない。今は、セレスティナを追い落とすことが先だ。姉の自立は、その後で考えればいい。


そう、自分に言い聞かせた。


けれど、胸の奥の棘は消えなかった。



三日後、ハンスが報告を持ってきた。


「リーネ様。アルヴィン殿下が動かれました」


私は顔を上げた。


「詳しく」


「来週の王宮晩餐会で、セレスティナ様を追及なさるとのことです」


来週。思ったより早い。


「殿下は、証拠を公の場で示すつもりか」


「おそらくは。王族が、王の面前で告発する。それ以上の効力を持つ場はございません」


私は頷いた。


王族の告発。それは、この国では絶対的な意味を持つ。王族の言葉は法的効力を持つ。アルヴィン殿下がセレスティナの不正を暴けば、セレスティナは逃げられない。


「姉は、その晩餐会に出席するのか」


「はい。エドワード殿下の婚約者として」


姉も、その場にいる。セレスティナが追い落とされる瞬間を、姉は目撃することになる。


「姉は、何か気づいているか」


「いいえ。ヴィオレッタ様は、何もご存じないようです」


当然だ。私は姉に何も伝えていない。姉は、普段通りの晩餐会だと思っているはずだ。


「ハンス」


「はい」


「来週の晩餐会、私も潜入する」


ハンスの顔に、驚きが浮かんだ。


「リーネ様。それは危険です」


「分かっている。けれど、見届けたい」


セレスティナが追い落とされる瞬間を。前世で私を陥れたあの女が、全てを失う瞬間を。


「手配をお願いできるか」


ハンスは数秒、沈黙した。それから、深く頭を下げた。


「畏まりました」



夜、私は窓辺に立っていた。


来週、全てが変わる。セレスティナは追い落とされ、姉は安全になる。私の計画は、一つの区切りを迎える。


けれど、胸の奥には不安があった。


姉を戦場に出したくない。その選択は、本当に正しかったのだろうか。


姉は、私に依存している。私が与える知識がなければ、姉は今の地位を保てない。それは、守っているのか。それとも、縛っているのか。


私は目を閉じた。


分からない。正しい答えなど、ないのかもしれない。


けれど、選択はした。もう、引き返せない。


来週の晩餐会。全てが、そこで決まる。

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