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悪役令嬢だった私は五年前の双子の妹として転生したので姉を陰から支えます  作者: 月雅


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第10話「影、光を見る」



姉と会う。その決意は、私の中で固まっていた。


ハンスに伝言を頼んでから、二日が経った。姉からの返答はまだない。けれど、私は待つしかなかった。


離れの窓から、本邸の方角を見つめる。あの屋敷の中に、姉がいる。私の存在に気づきかけている姉が。


助言書の筆跡を調べているという報告。姉は、真実に近づいている。ならば、私から全てを話すべきだ。姉が自分で答えにたどり着く前に。


怖い。


その感情は、否定できなかった。姉に会うことが。真実を話すことが。姉がどう反応するか分からないことが。


けれど、逃げることはもうできない。



三日目の朝、ハンスが来た。


「リーネ様。ヴィオレッタ様が、離れにいらっしゃいます」


心臓が跳ねた。


「姉が、ここに」


「はい。今、庭を歩いていらっしゃいます」


私は窓辺に駆け寄った。


庭の小道を、一人の女性が歩いてくるのが見えた。淡い紫のドレス。見覚えのある姿。


姉だ。


私は深呼吸をした。


逃げない。隠れない。今日、全てを話す。



玄関の扉を開けると、姉が立っていた。


私たちは、互いを見つめた。


姉の顔には、複雑な感情が浮かんでいた。驚き。困惑。そして、何かを確かめようとする真剣さ。


「あなたが——」


姉の声が、震えていた。


「助言書を、書いていた人」


私は頷いた。


「はい」


「誰なの。あなたは」


私は一歩下がり、扉を大きく開けた。


「中へどうぞ。お話しします」



離れの居間は狭かった。質素な調度品。古びた家具。本邸の華やかさとは、まるで違う空間。


姉は部屋を見回していた。その目には、戸惑いがあった。


「座ってください」


私が椅子を示すと、姉はゆっくりと腰を下ろした。私は向かいの椅子に座った。


沈黙が流れた。


どこから話せばいいのか分からなかった。十五年分の真実を、どう伝えればいいのか。


「……あなたの顔」


姉が口を開いた。


「わたくしに、似ている」


「はい」


「なぜ」


私は姉の目を見た。


「私は、あなたの双子の妹です」


姉の顔が、凍りついた。


「双子の——」


「公式には、死産として届けられました。けれど、実際には生きていた。この離れで、十五年間」


姉は何も言えなかった。その目には、理解が追いつかない混乱があった。


「父上の命令でした。双子は不吉だと。だから、私の存在は隠された」


「そんな——」


姉の声が、掠れた。


「わたくしは、何も知らなかった。妹がいるなんて——」


「知らなくて当然です。あなたには、何の罪もない」


私は立ち上がり、窓辺に歩いた。姉の顔を見ていられなかった。


「助言書は、私が書きました。あなたを守りたかった。あなたが、セレスティナに陥れられるのを防ぎたかった」


「なぜ、そこまで」


姉の声が、背後から聞こえた。


「会ったこともないのに。なぜ、わたくしを守ろうとしたの」


私は振り返った。


「あなたは、姉だから」


それ以上の言葉は、出てこなかった。前世の記憶のことは、話せない。話しても、信じてもらえない。


姉は私を見つめていた。その目に、涙が浮かんでいた。


「わたくしの功績は——」


「あなたの努力は、本物です」


私は姉の前に戻った。


「私は知識を提供しただけ。それを活かしたのは、あなた自身。社交界での振る舞い、人との対話、全てあなたがやったこと」


「でも、知識がなければ——」


「知識は道具です。使いこなすのは、人」


姉は俯いた。涙が、膝の上に落ちた。


「わたくしは、ずっと——」


「自分を責めないで」


私は姉の前に膝をついた。


「あなたは何も悪くない。知らなかっただけ。知らされなかっただけ」


姉が顔を上げた。涙で濡れた瞳が、私を見つめていた。


「あなたは——」


「リーネ。私の名前」


「リーネ」


姉がその名を呼んだ。初めて、姉に名前を呼ばれた。


「リーネ。これから、どうするの」


私は立ち上がった。


「アルヴィン殿下が、私に側近の地位を与えると言っています。表に出ろと」


「表に——」


「影として生きることに、限界が来ています。エドワード殿下が、私の存在に気づきかけている」


姉の顔が強張った。


「エドワード殿下が——」


「だから、私から動く。殿下に見つかる前に、自分の意志で表に出る」


沈黙が落ちた。


姉は私を見つめていた。その目に、新しい感情が浮かんでいた。決意に似た何か。


「わたくしも、知りたい」


「何を」


「全てを。あなたのこと。父上のこと。なぜ、こんなことになったのか」


私は頷いた。


「話します。時間がかかるけれど」


「構わない」


姉が立ち上がった。私の手を取った。


「あなたは、一人じゃない。もう」


その言葉に、胸が震えた。



夕方、アルヴィン殿下から使いが来た。


「明日、俺の屋敷に来い。話がある」


短い伝言だった。けれど、その意味は分かっていた。


私は返事を書いた。「参ります」と。



夜、離れの窓から星を見上げた。


姉と会った。真実を話した。姉は、受け入れてくれた。


明日、アルヴィン殿下に会う。側近になることを、受け入れる。表に出ることを、決める。


影として生きてきた。けれど今、光の中に出ようとしている。


怖い。不安もある。けれど、同時に、希望もあった。


アルヴィン殿下の言葉が、頭の中で響いた。


「お前が決めたことは、俺が守る」


姉の言葉も。


「あなたは、一人じゃない」


私は、もう一人ではない。


新しい人生が、始まろうとしていた。


(完)


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― 新着の感想 ―
凄く続きが気になります。 次の敵は第一王子でしょうか、楽しみです。
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