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一夜戦記〜重傷雑魚兵士と底辺シスターは娼館で繋がる〜

作者: 吉村吉久

 これまでは王道ファンタジーでも局地的なものばかり書いていた私ですが、今回は完全に「世界の運命がかかる」系になります。



 「一夜戦記」という物語を始めようか。


 ここはセームリア大陸。

 風の時代800年頃、勢力は大きく二つに分かれ睨み合っていた。


 帝国――大陸南部に版図を広げ、強国であるリム帝国とフェザン帝国が婚姻合併で100年ほど前から軍事拡張に乗り出したリム=フェザン二重帝国。

 オークやダークエルフといった亜人たちを積極的に取り入れ、ブリーズ王国を相手に有利な戦いを繰り広げている。


 北方ほっぽう――大陸北部の大部分を勢力下に置き、魔術兵やモンスターなどを用い、勝つためには手段を選ばず、広大な領土を背景に資源と耕地を求めて南下政策を続けている。 

 200年前あたりから支配を確たるものとし、北から大陸中部への進出の足掛かりとして作られた軍事都市メディリオトには大兵力が集結し、将軍がおかれ、密貿易も行っているという。


 挿絵(By みてみん)



 両者は睨み合いを続け、その他の国々はブリーズ王国を中心に連合を組んでおり、さらに歴史ある教皇領では聖都サクラメントゥムから教皇アガレスト3世により多くのシャイン司教が派遣され、それらは大陸中部のみならず、北方や帝国でも布教活動を行ったため、国同士の衝突を遠ざける拠り所となっており教会の力が強まり、大陸情勢は小康状態となっていた。


 シャイン教は「光臨ブライト!」という掛け声がポピュラーな天界・太陽信仰で、この頃大陸全土で教えが広まった。


 しかし、810年、突如その均衡を崩す出来事が勃発する。

 セイアーク山麓の戦いである。


 突如、北方の2万超の大軍が、トヴァ共和国の内部に現れ、軍事同盟を結んだと思われる北方・トヴァ連合軍が、ブリーズ王国(王国)もしくはオウミに攻め込むという情報が大陸中にもたらされた。


 しかし、実際にはメディリオトの南西からイアマット目掛けて獣人であるライカンスロープを含む1000あまりの小勢力が国境を潰滅させて南下し、イアマットの北にある王国側のセイアーク山麓にて激しい戦いが行われた。


 これは、後に「セイアーク山麓の戦い」と呼ばれる。


 はじめは小競り合いに過ぎず、イアマットの王国兵たちも加勢したため、王国側は4000人以上に達し北方軍を圧倒して撃退する流れだったが、北方のライカンスロープハーフの女騎士ブリエドが突如セイアークの住宅を攻撃し始め、凄まじい勢いで損害1500人以上、うち死者は700人以上に及び、その中でもブリエドが殺害した王国兵だけで300人を数えたという。民間人にも死傷者が出る惨事となった。一方で北方側は200人余りの損害だったという。


 この出来事に王国は震えあがったが、このブリエドは北方に子供がおり、子を攫われたことによる怒りからセイアークを襲い、それに北方軍が続いたという話で、攫われた子供が実は北方の本国にて無事に王国側から返還され彼女の怒りは収まったということ、


 さらにはブリエドが――シャイン教会の熱烈な信徒であり、特権を持つ騎士であることが次第に知られることとなり、大陸全土に衝撃を与えた。

 

――


 教皇領サクラメントゥムの某所――


 男たちが机を囲んで何やら話し合っている。


 この地には、彼らの他には誰も入れなくなっている。


声C「”ステラマリス計画”が始まったようですね……」

声V「と、いうことは、やはり”あの男”がこの世界に”一手”を加えたと?」

声A「……然り。ワシの立てた計画とはちと違うようだが……手はず通りの流れに変わりなかろう……」

声P「北方と帝国が手を組む、という危険は無いザンスか?」

声C「問題なし……ここまで”ゲート”のために奴には動いてもらっている……”搾取”も始まる。」

声V「役者もいる……凱王シメオン、黒点アリスト……北極星ブリエド、南極星ルキアルディアス……」

声A「くく、ははは! 四天王か、”天界”への第一歩に笑いがとまらぬな……さらに……探求のヘルモニゲルツ、金融のコーホート、統治のニッカール……」

声C「ふはは、そして巧緻のフレグラン、大将軍ジャスティニ……」


声V「あとは”ゲート”が予定通りに起動すれば……もはや、カードは揃った!」


声A「れるか……? 世界を……?!」


残り全員「――いただく……世界を!!」



――



 ここはスワンの街外れにある娼館。

 セイアークの戦いから2月が経過している。


 狭く、光があまり差し込まない館の角部屋にて、全裸の男が同じくローブを着た半裸の女を組み伏せ、やがて男が果てると倒れるように女を抱きかかえて動かなくなった。


「……その傷はもう、痛まないのですか? ミゲル様」


「あぁ、あれからだいぶ経つ……心配はいらん。うっかりしていたもんだ。槍にも剣にも腕に覚えがあったが、槍を折られ、終いには剣ごと右腕を吹き飛ばされてしまった……装備はフルプレートメイル。鎧なんて怪物にゃ意味がねえんだ。俺は叫んださ、「痛い!痛い、誰か鎧を脱がせてくれ、血を止めてくれ、死ぬ」とな」


 男――ミゲル・ソーヤネンが欠陥した右腕を押さえる。


 黒い短髪で太い眉と筋肉隆々の肉体が特徴的な30歳だ。


「よほど、痛かったのですね」


「あぁ、全部たった一人の女がやった。まるで誰かの所為にでもするかのように「あぁ、また殺してしまった」と言いながら同僚や隊長たちを次々屠り、ある者は真っ二つに、俺のダチの一人は両腕を切断されて、俺と違って鎧を憎みながらそのまま失血死していった。痛かっただろうな」


「そうでしょうね……どうして、戦争は無くならないのでしょうか?」


 女は20歳を過ぎているように見えた。長い金髪は腰あたりまであり、それが妖艶さをより醸し出しているが、前髪は片眼を隠すように長く垂らしており、どこかアンバランスでもある。

 

「あぁ、メリオだったか、そりゃ戦争を止めないからだろ。お前に止められるのか? もうそろそろ行かせてもらうよ。500ガバメント(通貨の名前)で良いんだったな? どうせこんなモン、戦争が終わってからでは使えなくなる。この2000は全部持っていってくれ」


 メリオと呼ばれた女がミゲルに縋りつく。ミゲルは思わず彼女を抱き返す。


「戦争を止めたいのですか? そのつもりが無いのなら、私はここで果てましょう」

 

 メリオの左手には黒く小さな球体が握られていた。


 それを彼女はどうやら飲みこみ自殺しようとしているらしいく、表情も絶望に満ちている。


「待て、お前を買おう。俺はそれで戦争を止めてやる……やれる限りのことはするさ」


「それでしたら、もう一晩、いや二晩でも、私とお話をしましょう。ミゲル様も私を抱き足りないのでは? まだお元気なようで」


「あぁ、元気なうち外にと思ったが……確かにもう日が暮れそうだ、どうしてこんなに長くここに居たのだろう。ところで、お前が修道女シスターであるということは、メリオ、本当なのか? 何故こんなところに」


「これは、そういう趣味の人用の格好ですよ……まだお話が……」


 二人は再び床にしなだれかかった。


――



 セイアーク山麓の戦いは、トヴァの裏切りと激戦による新たな火種への恐怖、そして圧倒的な強さを持つ「シャイン四天王」の登場により、教会の求心力は強まっていった。


 そして、次の戦いはそれから1月あまりが経ってから起こり、後に「第3次レイフティスの戦い」と呼ばれた。


 まずは、水の都レイフティスの自由図書館から「グレゴリの根」と呼ばれる展示物が盗まれたという事件から始まった。


 これはレイフティスでまだ風の時代300年頃に起きた「アジンボーン阻止戦」と呼ばれる戦いに起因し、当時人間が中心であったレイフティスの街を亜人を中心とする4万以上が南方から移住部隊とともに襲い、そのままレイフティスが亜人の居住地になるところを、グレゴリという人間と思われる男が怪力と策略を用いて大軍を街の守備兵と組み市街戦をして撃退する。

 それどころか、彼は多くの女たちを略奪し、最終的には敵の将軍の一人で女オークのアグリットを倒して手籠めにし、多くの子孫を作るも、あまりにも行き過ぎた野心と暴虐のために対外略奪戦争まで起こし、アグリットと組んだ男ユリウスによって滅ぼされ、その男根がミイラとなって保管されていた。


 これが何者かに盗まれ、錬金術らしき力で復活して巨大な「怪獣グレゴリ」となり、そこに帝国軍が護衛するようになってレイフティスを攻撃した。この軍勢は1万を超える数であったが、レイフティスの領主ジャスティニは、各地と教会支部に援軍要請を行い、5000の本国軍の他、王国からの7000、オウミからの3000の援軍とともに数で有利に立ち市街戦を行うも、一時は領主屋敷が占領される。


 だが、アリスト・サイベリウスト・アゲインストという黒光りの鎧に包まれた大男とルキアルディアスというダークエルフ軍首領の活躍があって、ついにグレゴリが討ち取られ、バラバラにされて火葬され、骨も残されなかった。


 アリストとルキアルディアスはその後、何かに取り憑かれたかのように突如引き上げる。

 両者は膠着状態となり、レイフティス側は総計被害6000人、うち死者2500人以上という甚大な被害を受けるも、帝国軍はグレゴリを失い5000人以上の被害を受けて潰走――


 後に、何故かアリストとルキアルディアスが教会信徒の一人であったという噂が流れ、それは教会への求心力へと繋がった。


 それから、教会は王都ヴェーンにて、「北と南の脅威に立ち向かうために、”四天王”を改めて組織する」というお触れがなされた。


―― 


「ここに、シャイン教会を祝福する天帝の名のもとに、四人の騎士の叙勲を行う!」

 オォォォ……


 目の前には、セイアークの戦いで何百もの王国兵を血祭りにしたという女、ブリエドが、その堂々たる鎧に包まれた肢体を晒し、大柄な体の膝を屈した。

  

 それから、巨大としか謂いようがない鉄板のような大剣を置く、筋骨隆々としたアリストも同じように膝を、さらには、骨のような長身で細身の姿に「魔王」と言っても良い禍々しい服装に身を包んだダークエルフの長ルキアルディアスも似合わない格好で王の前に膝をつく。


 ――そして、なんと、最後の四人目はブリーズ国王であるマッサリオンの第二王子であるシメオンが、そのつり上がった双眸をたたえながら、なんとも武骨な緑青の鎧を身に纏い、父王の前に膝をついた。


凱王がいおうシメオン、黒点こくてんのアリスト、北極星のブリエド、南極星のルキアルディアス、四人を、シャインの加護のもと、四天王として叙勲する。今後も大陸の安寧のために日々努力すべし、太陽と空は、常にシャインの教えと共にある……ブライト!!」


「ブライト!」


 四人が一斉に頭を下げる中、既によわい80歳を超えるという、教皇アガレスト3世、クレメンス枢機卿すうききょう、ヴァイケル枢機卿、プレザンス枢機卿というサクラメントゥムの重要人物四人が、それぞれ一斉に戴冠を行った。


 頭が光り、何らかの同調が彼らの中で行われているようだ。

 思わず叫び声を上げる、感情的なアリスト。


 ブリーズ王マッサリオンは構わず跪いている。


 禿げ頭にシャイン教会のベールを被り、すっかり教会に深入りしており、その一員と化しているのだ。


 オォォォ……


 その不気味な四人が勳される光景に、周囲の王国騎士や文官たちは、異様なものを見るように色々と噂をし合い、今後の王国と大陸の動向に不安を隠すことができなかった。


――



「そういえば、一月ほど前にも大きな戦いが起こって妙な動きがあったことを知らないか?」


 ミゲルはメリオに覆いかぶさるように抱き着いた状態で、話を進める。


「えぇ……どうやら”教会”が動いて、南でも戦争が起こったようです。また尊い命が奪われたかと思うと、悲しくなります。これで大陸での戦争が収まればいいのですが……」


「ん? メリオは今、「教会が」と確かに言ったが、戦争を鎮圧したのが教会だと聞いている……それは、教会が意図してこの戦争を起こしたと……?」


 メリオは思わずビクリ、と身体を震わせた。


 自分が意図しないうちにどうやら事の本質を語ってしまったようだ。


 これでミゲルという強力な手駒をどうにかして消し、代わりを探すか、あるいは自分の内部へ取り込むか、メリオはその選択肢に迫られる。


 メリオはミゲルに脚を艶めかしく絡めて言った。


「天は……神は全てをお見通しなのです、ブライト……!」


 メリオがローブのポケットの深い位置から取り出した物は、1000年以上前の時代に盛んに使われていたというルーン文字が刻まれた、沢山の小石であった。


 それらは水晶玉と共鳴したかのように、共に光るのを、メリオは肌で隠して抑えた。


「もしかして、お前、占いでもできるってのか?」


「えぇ……それで”教会”の動きも多少は分かるということです……」


 メリオはどこか遠い眼をして、ミゲルから目を離した。


――


 サクラメントゥムの某所にて。


 男たちが天球儀の下で半裸で沐浴をしながら語っている。


 傍には全裸の若い女たちが男たちの身体を綺麗な布で拭き、異様な光景が広がっている。


声P「”ステラマリス計画”を次段階へ動かして良い頃ザンスね」

声A「そのようだ……だが、気を熟させるためには、もう少し血が流れる必要もあろう……お前、どうしたのだ?」

声N「いえ……少しばかり装置の確認を……我々が別行動することで、”ゲート”の守りが薄くなりそうですが、その点はいかにするのでしょう?」

声C「ヴェーン大学の者はどうなっているのだ? 情報をくれ」

声H「それでしたら……全てはこちらの手際にお任せくだされ……」

声A「……それにしても、何もこのような者までも”天使”に? 少々、思い切り過ぎではないか?」

声N「しかし、どうしても腕の立つ者が必要なのです……ここまでの戦、かなり私も肝を冷やしました」

声K「へへ……財務に関してはあっしにお任せください……」

声J「フハハ……俺が天使とならにやったからには、どんな反乱でも鎮圧してみせましょうぜ!」

声F「万事抜かりなく、こちらは「上物」を猊下げいかいや……天帝てんていのために用意してあります」

声P「それは有難いこと。ワタクシもそれに肖りたいものザンスなぁ……」


声A「まあよい……全ては”天”の決めしことだ……よいな。世界に……ブライト!」


残り全員「ブライト!!」



――


 

 それは第三次レイフティスの戦いから一月近くが経った頃、マリスブルグの白湖はくこのほとりに立つ、ドワーフたちが詰める火薬の保管された要塞が突如大爆発を起こすところから始まった。


 それが戦いの火蓋であるかのように、北方から北方・トヴァ連合軍およそ2万5000がメディリオトを拠点としてマリスブルグに迫り、北方三大旗の一人、ヤーマンが竜に乗ってホークナイト部隊を率い、竜人兵による空からの奇襲が行われ、マリスブルグの北に位置する王国領マドリガルを占領した。


 後に「マドリガルの戦い」と言われる戦である。


 これに対し、帝国・レイフティス・オウミは一時的な協力関係を結び、計3万を超える軍勢を、帝国の女帝でリム総司令のアムレート2世、そしてその従兄弟でフェザン総司令のネコ11世が自ら率いる陣容で、北方に対し優位に立ち、まずはリムのワイバーン隊による容赦ない重爆撃を加えることになっていたが、何らかの手違いでマドリガルの前にマリスブルグにも爆撃を行ってしまい、守備兵と民間人に多数の死者を出す。


 これはマリスブルグ側の反感を買い、郊外に天幕を構えていたオウミ・レイフティスの軍勢相手にマリスブルグ兵による奇襲が相次ぎ、フェザン軍が水竜を使ってマリスブルグの港を抑えることで辛うじて互角な状態に持ち越した。


 やがて、北方のヤーマンの竜が重傷を負い、引き上げると北方も士気が下がるが、本国最大の補給地点であるメディリオトが近いことが奏功して、副官のグルクを中心とする軍勢で押し返した。

 戦いは両者が引き揚げ、睨み合いとなって一日が経ったところで、ブリーズ王国が「本土の防衛と信仰の保護」という名のもとに軍勢を派遣する。


 その中にはなんと――


 四天王のシメオン、アリスト、ブリエド、ルキアルディアスの全員が並んで乗馬し、参加していた――


――



「おい、凱王よ……この状況は北方と帝国の代理戦争……どうせよというのだ……?!」


 ルキアルディアスは帝国に居を構え、子孫もそちらに居る。どう考えても帝国軍を攻撃するのは気が乗らない。


「そう言われてもな、父上がやれと仰せだ。それにこの連中はシャインに仇なし歯向かう逆賊だぞ。帝国軍と見るのもどうかと思うが」


「おいおい、王子さんよ、さっさと斬ってやろうや……俺のこのザンバーがよ……疼くんだよぉぉ……!!」


 もはやアリストは狂戦士のように目が血走っており、以前怪獣と化したグレゴリを狩った時のような勢いが止められない。

 止むを得ず、シメオンは判断を下す。


「では、ブリエドとルキアルディアスは後方で待機! オレとアリストを中心に全軍展開しろ、突撃!」


 シメオンのハルバードが緑色に輝く。

 これが強大な魔力が込められた「凱王」の力だ。

 

 ――しかし。



「グァァァ!!!」


 目の前にいるアリストが、突如大きな叫び声を上げる。


 ただ事ではない。


 ガタァァァ――ゴシャァァ……


「グッ! ウオォォォ!!!」

 

 アリストは頭を抑え、突如落馬する。


「あ、アァァァ……! 誰か、助けてェェ……!」


 続いてブリエドが馬から降り頭を抱える。

 残りの二人も下馬し、頭をしきりに抑えている。


 アリストは地面にその巨大な兜ごと頭を打ち付け、岩を砕くと、やがて自分の頭が脳漿を吹き出し破裂した。


 その後、ブリエドがその姿を見て先を悲観したのか、気絶してそのまま泡を吹いて動かなくなった。

 ルキアルディアスも自分の腕に猛毒を打ち込んで座ったまま鋭い双眸から涙を流しながらビクビクと痙攣して絶命する。


「うわぁぁぁ!! オレは死なん……死にたくない!! ガアァ!!」

 

 パカァァ……!!


 一人鎧姿のまま彷徨うシメオンも、頭蓋骨に皹が入ったのを確認すると、その場に崩れ落ちていった。


 ガシャァァァン……!


「四天王が死んだ……? いや、殺られた……のか?」


「まずい、撤退するぞ!!」


 シメオンの副官が撤退命令を出し、王国軍は散り散りになって撤退していった。屈強な四天王のような人間が一瞬で命を失う恐怖からの行動。


 統制が取れない中、一部の信仰心や忠誠心の高い兵たちが、四天王の死骸を回収して王都ヴェーンへと持ち帰っていった。


 それらはしばらく安置され、ヴェーン大学学長のヘルモニゲルツが、自身の生命科学研究所へと回収することになった。



――



「どうやら、東の方で大きな戦が行われたようですね……」


 メリオが、疲れて横たわるミゲルの傍で囁く。


「外の連中の噂では、四天王が殺されたとか、そういう話らしいが……あの俺の仇でもあるブリエドも、この戦いで死んだというのか……?!」


「……そのようです。恐らくは神を欺いた罰ではないのですか? これからもこのようなことが続くのですよ」


「それは恐ろしいな」

 

 メリオの胸元に抱き着くミゲルを、メリオはいとおしそうに撫でた。

 

 その傍らには小さなルーン石が一つ分、砕けて散らばっていた。

  

 四天王を葬ったのは、()()()()()()()である。


――


 サクラメントゥムの某所。


 ローブの男たちの近くには半裸の若くスタイルの良い女たちが頭を垂れ、食事などの世話をしている。


声V「おかしな話だ……ここで四天王が死ぬというのは、誰のシナリオなのだろうか?」

声A「バカな……! ワシのシナリオでは順番が違う……ここはお前に任せる。”天界”を浮上させるぞ」

声N「では、止むを得ませんね……これより浮上の準備に入ります。ヘルモニゲルツはおらんのか?」

声P「どうせまた怪しげな実験をしているザンス」

声C「四天王の肉体を回収したと聞いている……気になるな。四天王が無くなったとて、我らの「"ステラマリス計画"」が崩れた訳ではあるまいよ。解剖の結果が出たら情報クレクレ」

声F「そうですね、私も少し”地上”の様子を見てきましょう……まだ”資源”が足りませんからねぇ……」

声J「本当だぜ、お前は相変わらずの女好きだな……って、俺様には言われたくもねえか……」


声A「静粛に……! これより「審判の最終章」を執り行う……! 「五大天使」は速やかに任務を全うせよ……ブライト!!」


全員「審判の時は来たり、ブライト!!」


 

――


 グィィィーーン……


 教皇領のほんの一部が「天界」として浮上を開始している。


 その様子はサクラメントゥムの街並みや尖塔がどんどん小さくなっていくことから分かる。

 「ゲート」が存在する限り、地上と天界とは隔てられ、永久な安寧が続くのだ。



 しかし――



「馬鹿な……一体どうやって四天王を……この「天界プロジェクト」に穴があったというのか……まさか()()()()四天王を意のままに操れる者が存在しているとは……」


 金の刺繡が施された白いローブのフードを外したニッカールは、そのウェーブがかった長い黒髪を露出させた。


 姿は48歳というには若々しさに満ちているが、汗がダクダクと流れ、その目には気疲れのようなものが隠せていない。


「ニッカールよ、これでは教皇猊下もお怒りだろうぞ……だが、お前一人の責任ではない……我々「五大天使」は崇高なる使命のために止まることのない「役割」というものがあるのだ。それを忘れるな……」


「承知している……コーホート殿。貴殿の財務能力には怖れいる……これだけのものを、どうやったら”地上”から集められるか、本当に尊敬に値するよ」


 ニッカールの微笑に、コーホートと呼ばれた神聖ファランクス騎士団長にあたる長い文官帽を被った男は”天界”に移動を完了させた大量の金銀財宝を背後に、ニヤリと口元を歪める。


 そして彼はそのまま言葉を返した。


「我々を怒らせれば、大陸全土をも支配するくらい、造作もないことだよ。もはや……この高度には普通の竜やワイバーンも昇っては来れまい。超次元空域にいるのだから」


――


 ゴゴゴゴ……


 混乱の最中、統治者のいなくなったレイフティスは、同じく敗走した帝国軍を追撃するべく、ジャスティニの部下でハーフオークのペリオンが自ら周辺諸勢力とフェザンの亜人勢力をまとめ、それらは2万近くの大軍となって帝国の五千年都市ベリルメンヌハへと侵攻を開始、包囲した。


 さらに、北方の弱体化に痺れを切らしたトヴァの領主、タオレ・ソーヤネンが南のオウミの領主オス・モーサン、マリスブルグの反乱軍と連合を組んで1万5000程度の軍勢で北方の複合都市メディリオトを包囲した。

 かつて「北方か、帝国か」と言われた超大国はもう見る影もなく、為す術もなく徐々に連合軍に押されていった。


 包囲されたベリルメンヌハ、メディリオトからは教会支部の竜騎兵を急ぎ使者としてサクラメントゥムに遣わした。


 が、既に教会では教皇らの姿はなく、サクラメントゥム宰相ニッカールの部下、ジョクサルが対応に追われたが、既に浮上した「天界」の影響で王国からサクラメントゥムに兵が向けられ混乱していたため、これといった対策をすることができないでいた。


 ジョクサルは教皇の武闘派僧兵により、その日のうちに処刑された。


――



「ミゲル様、そろそろ行きましょう。恐らくスワン領主で大司教のフレグランはこのヘロンからは姿を消しています……そしてこの娼館も管理人が不在になっているはず。その前に……「お片付け」をする必要がありますね」


 繋がった状態から身体をゆっくりと離し、立ち上がると水で肉体を清め、ローブの乱れを正すのは、紛れもなくあの娼婦メリオの姿だった。


「……メリオ、お前は教会関係者……? あのブリエドもお前が殺したというのか……? それと、娼婦をここでしている理由は……? 何故、俺を助ける?! 教会とは俺は何も繋がりはないぞ!」


 メリオは再び座り込むとローブのフードを外し、まだ全裸姿の片腕のミゲルに向き直った。


「……私は本名をメリヴィア・シアントローズと言います。片腕の戦士を探し、どうしてもここに匿い、味方に引き入れる必要があったのです。私は教会を信仰している人間ですが、”教会”を憎んでおり、全ての人々を”教会”の魔の手から救いたいと、そう願っています。そろそろ何かが起こるはず……ミゲル様にはもう少しで大事な役割が与えられます。ゆっくりとお着替えなさってください」


 ミゲルが水で身体を清め、その無駄な筋肉のない肉体に鎧を纏う間に、事態はさらに動いた――


――


 サクラメントゥム・ヴェクトラム大聖堂の地下ゲート室にて――


声A「これよりヘルモニゲルツの使役した魔法兵たちを使い、ヴェーンの占拠に向かう……」

声V「つまり、地上の”粛清”を行うということですな……」

声P「そうザンス……つまり、余計なことを「知ってしまった」者たちを片づければ……」

声C「要は、我々の()()()()()人間だけが残る……という訳か……さすがは教皇猊下……!」

声A「声が大きいのですよ、クレメンス。我らは直接手を下す必要はない、何故なら臆病者のヘルモニゲルツが全てこの任務については責を負ってくれるからだ……」


声P「しっ……何者かが現れたようザンスよ……」


――と、外からスタイルの良い修道服を着た女が、魔力に満ちた尖兵たちを率い、教会の護衛たちを襲っている。


「ギャァァ!!」


 ヴァイケルが錫杖を構え、女に問いかける。


「どういうことだ貴様、天界の兵たちが我ら「創造主」を襲うとは……こちらにおわすのは教皇猊下であるぞ……!」


 女はすぐに答え、目の前に手に刃の付いた細身の男――教会の尖兵が複数降り立つ。


「我が名はガラシア……”調停者”ニッカールの命を受けて来たものです。あなた方は「反逆罪」で異端審問にかけられ、有罪となった……これにて粛清を開始します」


「ぐっ……強い……ガァァァ!!」


 枢機卿の中でも最も武闘派と言われたヴァイケルが血の柱を上げながら絶命していった。


「……どういうことザンス……これは……ギャァァァ!!」


 吹き飛ばれて息絶えるプレザンスをどうにか跳ね退け、80歳を超える教皇アガレストが声を振り絞り出す。


「まさか、これは……”ステラマリス計画”の本質が先に読まれていた……? しかし、ワシは天帝であるぞ! 貴様らがそれでも襲うということは、天帝の命に逆らうということなのだぞ……!!」


「構わん、殺せ!」 「はっ!」


 ドシュ……ドシュドシュ……


「ギィェェェ……!!」


 ”天帝”を名乗った教皇アガレスト3世は、永遠の命を手にしながらも、数多もの肉片になり生涯を終えた。


「た、助けて……ギャァァァ!!!」


 そして、残りのクレメンスも殺害されたところで、ガラシアは剣を掲げる。


「これにて、始末を完了しました。ゲートの破壊を行います」


「……素晴らしいぞ、良くやってくれた。執行せよ」


 細長い石が四角に並べられ、輝いていたが、それらは全てガラシアたちによって破壊されていった。

 尖兵たちが降り立つと、ガラシアに全て首を刎ねられ、彼女自身も自分の首を剣で貫いた。


「全ては神聖アニマ連盟、ニッカール様のために! ブライト!!」


 教皇と三人の枢機卿は殺され、ここに”教会”は滅亡した。

 祭壇は血と屍肉に塗れ、光を失い、暗闇に覆われていった。


――


 ゴゴゴゴゴ……!! ドド……ドドドド……ゴォォォオン!!


 なんと、白湖から巨大な火山が現れ、周辺の地域に大量の溶岩やマグマ、毒の灰を降り注がせていった。


 ヴェーン、マリスブルグ、レイフティスは紛れもなく大きな被害を受けて壊滅し、その周辺にあたるサクラメントゥム、イアマット、オウミにも被害は及んだ。


 キェェェェ……!! グォォォ……!!!


 大陸の北部にドラゴンが出現する。神龍王アトルム・オストリムであった。

 その体は黒光りしており、巨体に二つの大きな翼を持ち、長い首からは灼熱の黒炎を吐く。それはあらゆるものを溶かす死の炎である。

 そして南部にもドラゴンが登場、天龍王ローカナ・アローカナであった。

 体は白銀の鱗に覆われ、長い蛇のような外見で自由に空中を飛行し、口からは電気を凝縮した破壊のブレスを吐く。それはあらゆるものを破壊する天のいかずちである。


 彼らは空中魔法陣に封印されていたものが、突然解き放たれ、暴走していた。

 大陸中の人々は恐慌に陥った。


――


 ――天界、そこではニッカールが天帝「聖ニコラ」として君臨していた。


 時間は地上では夜。

 天界はアニマの力で明るく煌めいていた。


 彼は元はマリスブルグの領主の落胤に過ぎなかったが、あらゆる手段を用いてのし上がり、彼の提唱した画期的な搾取システムと計画が教皇アガレスト3世の目に止まり、ついには彼の養子にまで出世したのだ。


「ふはははは! 良いぞ! アガレストと”教会”はもう存在しない! これで私が事実上の”天界”の主になり、天帝の地位に就いたのだ。これより地上の隷属化と恒久的な支配を行う! 神聖アニマ連盟による、”アニメイト世界”の創造が始まろうとしているのだ!」


 ニッカールが四つの浮遊石の中間にある石柱の操作板に触れると、サクラメントゥムで混乱している住民たちを避難させようといている、300人程度の神聖騎士たちの頭上めがけて、「制裁」を下した。


 ドゴォォォン――


 突然の強力なビームによる爆発により騎士たちはあっという間に消し炭になり、避難しようとしている住民もがその巻き添えとなり、500人以上がその一撃で死亡した。


「ふはははは!! もはやシャイン教会など必要ない! 何故なら、この「天界」こそが全てだからだ! 脆弱な兵や住民など、天の力に比べれば、無力なのだ! どこぞの教皇のようになァ!!」


 ニッカールが狂気を顕現させる。


 アニメイト世界とは、このセームリア大陸に人々が根付いた頃のあらゆる「国家」が存在しない、アニマのみで生活をしていた、大陸の本来の姿のことであった。

 これを信奉するニッカールたちこそが、”教会”の暗部のさらに暗部、超過激派だった。


 実際に、ニッカールは簡単な金の刺繍の薄絹しか着ておらず、他の天界の支配者層たる「五大天使」は、衣服を何も身につけておらず、全裸で若い女たちの接待を受け、巨大な浴室にふんぞり返っていた。


 女たちには、剣を持った兵たちもおり、彼女たちは翼を授かっている天使兵であり、最低限の武力を持っていた。


「話が違うぞ! 我々はシャインの教えを守っていたはず! 天の教えを守らず、教皇猊下をころし、地上を隷属させるとはどの教義にも存在しない! お前たちは……」


「始末しろ」「はっ!」


 女たちが数十人の天界に携わったシャイン兵たちを次々に剣で殺害していった。

 シャイン兵たちは殺されてから突き落とされ、ある者は突き飛ばされて天界から落下し、またある者は自ら飛び込み命を絶ち、全滅した。


「へぇ、俺様たちが手を下すまでもねえってか、さすがは天帝様だぜ、なぁ?」


 レイフティス領主ジャスティニが筋肉でできたような巨体で女たちと交わりながら、その中の一人に問いかけていた。 

 文字通りここはヘヴン状態。


「そうなのですよ……我々の使命は子孫を残すこと。ここで完璧な我々――”種”と完璧な肉体を持つ女――”器”たちが交わり、優秀な子孫がこの天界を繁栄させる。そして、若い女たちは、いずれ我らが地上に「搾取」しに行けば良いだけのことです」


 フレグランが女を満足させながら、自分も満足の表情をして答える。


「ワタクシの生命科学研究所もありますしね! たまに自ら地上に出向いて、新たな生命体を生み出し、こちらの”器”もハイブリット化させねば」


 ヘルモニゲルツ学長の自慢に、コーホート騎士団長が合いの手を入れる。


「それならば、我々の”種”も鍛えられるようなクスリが必要ですな、はっはっは……!!」


 一行は天界にて、快楽の時間を過ごしていたが、やがて、ニッカールの眉間が険しくなり、立ち上がる。


「これは……一体どういう……?」


 ニッカールの傍に置かれた水晶玉がわずかに光っていた。



――


  

 メリオ――メリヴィアは黒い球が変色した水晶玉から向こうを覗いた。


 そこには裸の男女を後ろに映す、ウェーブ髪の醜い天帝の姿があった。

 彼女の宿命の仇である、ニッカールである。


「――四天王殺しも、全ては、貴様が、メリヴィアがやったのだな! どこで”本物”とすり替えたのだ……や、やめろ……!」


 ニッカールと目が合ったのを確認すると、メリヴィアは同じルーン文字の刻まれた四つの真のルーン石を取り出し、うち一つに魔力を込めて破壊した。


「フレグラン、フレグランは何をしているのだ……! メリヴィアの監視はどうした?!!」


「はぁ……メリヴィアならスワンの街近くの川岸で死体で見つかっていますが、どういうことです?!」

 

 既に天界は四つの浮遊石の一つを破壊されており、少し動揺しながらの浮行を辛うじて保っている。


「ここに映る女がそうではないのか?!」


「まさか、メリヴィア?!! すり替えられたか!」


 ルーン石だけではなく、本人まですり替えを行っていたことに、彼は驚愕を隠せない。

 しかし……


 ガィィン……!


 力を失った石の対角線の浮遊石も無力化され、さらに「天界」は無防備になった。


「馬鹿な! バカなバカなバカナァァア!!! これでは完全にこちらが一方的にいたぶられているではないか!! この天帝たる私が、この()()()()()()()()()()に!!」


 周囲は混乱する大浴場と裸の男女、そして兵たちがあたふたしているが、天帝ニコラ――ニッカールは水晶玉に映る修道服姿のメリヴィアを凝視して睨みつけ、罵った。


 メリヴィアはそれを睨み返すと、一気にまくし立てた。


「……マリスブルグのスラムで兵長のニッカール様に会った時、私はまだ14歳でした。私は貴方に騙され、家族と仲間を虐殺され、手籠めにされ、下僕になりましたね。精神と肉体は破壊され、生殖能力も失いましたが、貴方の野心を知ることができた……ゲートの実験にも付き従い、18歳で猊下の直属となり、貴方が猊下と袂を分かつ存在だと知りました。その後ヴァイケルの着服に便乗して多額の財を得、装置の偽物を製作。22歳で貴方とまたお会いしましたね? この際に「自壊用の石」だけを全てすり替え、隙だらけの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、24歳となった今、「審判の最終章」の日を狙って娼館の女と入れ替って殺害、そこの管理人を金銭で買収してこの片腕の戦士と共に、貴方を滅ぼさんとしています。心のある人間とは貴方の冷たい肉体とは逆に、温かいものです。さあ、残ったルーン石、2つとも同時に破壊して差し上げましょうか、()()()()()()?」


 ニッカールは叫んだ。


「やめろぉぉ! 私には守らねばならぬ民がいるのだ! マリスブルグは私の一族の土地だ! 治安を守るために荒くれどもを始末したのは仕方がなかったのだ! 私はこれから民を守るために地上に降り立つ。それから、全ての者たちを許そう。戦争の火種を起こした北方や帝国も今なら話を聞いてくれるはずだ! だから……メリヴィア、どうか落ち着いて、私を受け入れてほしい……!」


 メリヴィアは答えた。


「残念です、天帝様。私は許されるような悪いことは何一つ貴方にしておりません。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけです。――ブライト!」


「神などいない! 私が、俺が全てなんだよォォォーーッ?!!!」


 ゴゴゴ……


 残る浮遊石二つも力を失い、次第に「天界」は傾き、崩れ始めた。

 ニッカールらに注ぎ込まれるアニマやエネルギーの源も断ち切られ、羽根のある者はそれをも失った。


 南北の神龍王、天龍王もそれぞれ魔法陣の中へと封印されていった。

 ヘルモニゲルツの生命科学研究所にもルーン石が仕掛けられており、これの自爆装置が起動され、一瞬で研究所は爆発四散した。


 泣きわめく男女、最後まで快楽に耽る男女、そして最後まで狂ったように武器を振るい殺戮を続ける人物、ニッカールは全ての力を失い、あらゆる人間の醜い部分を最後まで見ながら、静かに落下し、永遠といわれる命を失った。


 人々は風の時代812年のこの出来事を、歴史家たちは娼館でカタが付いたことを称えこう呼ぶ。


「一夜戦記」と。


――


 メリヴィアの力を得て右腕に光の槍を携えたミゲルが、フレグランが領主を兼ねていたスワン大司教区の教会を襲った。


 魔力を完全に失ったメリヴィアも王国の旗を掲げ、力の限りミゲルを支えていく。


「解放するぞ! フレグランの汚職が発覚した以上、我々スワンの有志が立ち上がり、大陸を救うのだ!」


 スワンの自警団との共同によるミゲルの襲撃は成功し、一部の熱狂的な教団兵は散っていったが、多くは降伏し、スワンはミゲルが暫定的に領主を務める領土となった。

 

 彼は後に「片腕のミゲル」と称され、メリヴィアを妻とした。


 ミゲルは武力で、メリヴィアは知略でスワンを治めることで、栄えていった。



――



 娼館での出会いが大陸の運命を変えたことは、150年が過ぎた今、風の時代960年には伝説となっている。


 今ではブリーズ王国は複数の国に分裂し、スワンはブリーズ地方でも最も力がある共和国となった。


 各地は戦争で疲弊し、820年にはメリヴィアが仲介役として北方と帝国の停戦が成り立つと、各地は平和を謳歌する時代へと変貌した。


 領土を失ったシャイン教は、今ではごく一部の信徒が希に暴動を起こす程度まで勢力を弱めている。



 スワンではミゲルの養子となった人物の子孫が領主を務め、領主館の前にはミゲルとメリヴィアの銅像が立ち、スワンとその周辺を見守っているという。



 ~ 著者:クタヴァリ・ソーヤネン ~



 完



 以上、これが私の「戦記」での最終作品となります。

今回は私が時間をそれなりにかけて構想したオリジナル世界観地図とのセットとなり、内容もこれだけで良いのか?と自分でも疑問がありましたが、良いんです! 読者の皆様には最高に濃厚な凝縮した中二病全開のダークファンタジー世界を味わっていただければ幸いです。


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全体通して淡々とした容赦ない展開が良かったです。卓上やベッド?で行われる会話と対比的な残虐シーン、男尊女卑を一切の迷いもなく描いた作品って最近じゃなかなか無いので貴重なもの?を読ませてもらいました。あ…
はじめまして。15000文字にこの内容を収めるのはもうムリゲーでしょう、とまずは思いました。 全体的に好きなノリですが、個人的に一番良かったのが四天王が苦しんで全員死ぬとこですかね。 その場の情景がわ…
いきなりドッと重いものがのしかかって来たかのような感覚に囚われました。 突然の吉村先生の濃厚なダークファンタジー世界。 娼婦が出てくる作品なのでエロティックなものかな、と思ったら、かなりハードボイル…
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