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キャベツ太郎の朝焼け

作者: 木藻 一月
掲載日:2025/10/20

 頭の中で声が響く。


「お前、殺すぞ」


(殺せるもんなら、殺してみろよ)


「コイツ、キモい」


(キモくて何が悪いんだ)


 頭に血が上り、キャベツ太郎の包み紙を地面に投げつけた。


 頭の中の声と会話をしているつもりだった。頭の中の声は止むことの無い罵声を浴びせ続けてくる……


 その度に僕は頭に血が上り、その声に対して言い返していた。


 ことの発端は大学に入って間もないときだった。体育の授業だったか? サッカーをしていて、点を入れられたときだった。


「お前のせいだぞ」


 一瞬、耳を疑った。こんなに露骨に愚痴を吐くやつがいるだろうか? むしろ顔を見てみたいと思い、周りを見渡したが、みんな素通りして行った。


(おかしいな……)


 それからと言うもの謎の声は聞こえてきた。不安と焦燥に駆られながらも、何とか生活をしなければと必死だった。


 でも、親からの仕送りはしっかりと貰っていたので、金銭面で悩むことは無かった。有難い話である。


 問題はこの謎の声。四六時中聞こえてくるのだ。気が参りそうだった。と言うか、参っていた……


 母親が心配になり、駆けつけてくれた。様々な病院を駆け巡った。CTを撮ったときもあった。結局、診断名は〝統合失調症〟だった。


 統合失調症は昔は精神分裂病と呼ばれていたらしい。僕の主な症状は頭の中で声が響く幻聴だった。


 それから母親と実家に戻り、自宅療養生活が始まった。


 両親の寝床である六畳の部屋で半日を過ごした。頭が割れる様に痛かった。気を紛らわせようとして、母親がよく聴くクラシックの音楽を流してみるが、更に頭が痛くなるだけだったので消すことに……仕方なく、母親からスマホを借りてYouTubeを観ていた。色々観ている内に、少し笑うことも出来た。自然と頭の痛みは少し柔らいだ気がした。


 そんな日はまだ安定した日だった。


 酷いときは精神薬の副作用で、夜中に腕をボリボリ掻いた。虫が血液を這っている様な不快感が続いたためである。一分、二分で終わるのならいいのだが、落ち着くまで30分はかかった。


 そんな日々を繰り返し、少しずつ動けるようになってきた。


 試しにパソコンを触ってみるが、思う様に操作出来なくてイライラした。終いにはパソコンが変なウイルスに罹ったのか、フリーズしてしまい、初期化することに……


 そのとき同時に、何故か世界が壊れる様な感覚に襲われた。


 とあるロールプレイングゲームを頭の痛みと闘いながらもクリアした。嬉しかった。


 今までプレイしたゲームの癒しの曲だけ集めて、眠るときのお供にした。


 実家が自営業だったのもあって、少し働かせてくれた。稼いだお金を風俗に注ぎ込んだ。


 コンセプトカフェによく行く様になる。


 塾でパートを始める。一旦就職するが、三か月で辞める。その後入院。


 親父が亡くなる。


 遺産を貰う。コンカフェや風俗に使う。


 入院先で出会った女子高生と付き合う。


 女子高生と別れた後は年上と付き合う。約10年間続いた。楽しかった。


 他の女とヤりたくなる。別れる。


 統合失調症と診断されてから約20年が経った。


 キャベツ太郎の包み紙が地面に落ちていたので、拾ってゴミ箱に捨てる。


 頭の中で声が響く。


「お前、殺すぞ」


(殺せるもんなら殺してみろよ)


「コイツ、キモい」


(キモくて何が悪いんだ)


 頭の中の声に対して、昔と同じように言い返す。空は綺麗な朝焼けだった……

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